石油危機で工務店の倒産ラッシュ! 「家は建たず、ローンだけ残る」悪夢が起きる!!
さまざまな業界で「石油が足りない」の悲鳴が上がっているが、中でも深刻な影響がある産業のひとつが建設業界だ。このままだと、中小工務店の倒産が進み、建築の施主(注文者)にも被害が及ぶ可能性も……。不動産会社から塗装業者まで、建設に関わる現場の人たちの声を拾った!
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【物件の値上がりはいつ?】
ホルムズ海峡が実質的に封鎖されて約1ヵ月。日本国内で消費される原油の9割超は、この海峡を通る。3月下旬以降、中東産原油の供給が途絶え、政府は石油の国家備蓄の放出に踏み切った。
資源エネルギー庁が公表する備蓄量は、4月4日時点で「231日分」だ。しかし、防災アドバイザーの高荷智也(たかに・ともや)氏がこう指摘する。
「公表されている備蓄量は約7000万kl。日量にすると28・2万klです。しかし、日本国内の実際の消費量(年間1億7500万kl)から算出すると、1日当たり48万klが必要。つまり備蓄は実質的な需要の58%分に過ぎません」
なぜ、これほどの乖離(かいり)が?
「法律が定める備蓄対象は、ガソリンや軽油、ジェット燃料油といった燃料用途に限られるからです。プラスチックなどの原料となるナフサなどは含まれていません。すべての石油製品を含めた実需ベースで計算し直せば、備蓄は231日分からおおむね150日分まで目減りします」
この「石油危機」の局面において、各産業がダメージを受けているが、その中でも深刻なのは住宅・建設業界である。サッシ、浴室、洗面台といった樹脂製品から、断熱材、上下水管、屋根の下地材、塗料に至るまで、ナフサを原料とする建材価格が物流費とともに高騰しているからだ。
「LIFEFUND」(静岡県浜松市)の白都卓磨社長は建設業界の危機を訴える(写真提供/LIFEFUND)
静岡県浜松市で注文住宅の設計・施工を手がける「LIFEFUND(ライフファンド)」の白都卓磨(はくと・たくま)社長は、足元の状況をこう語る。
「3月末以降、商社や材料店から、毎日のように値上げの通知が届きます。特に塗料や断熱材、木材の上昇が激しく、このままいけば家1棟当たり少なくとも5%のコスト増になる見通しです。30坪・3000万円の標準的な住宅で、原価が150万円ほど膨らむ計算になります」
今後、住宅の販売価格はどうなるのか。不動産コンサルティングを行なう「らくだ不動産」(東京・渋谷)の山本直彌(なおや)社長は、こうみる。
「建材価格の上昇が販売価格に反映されるまでには時間差があるため、現時点では目立った影響は出ていません。ですが、早ければ今夏にも新築物件の価格は一段と跳ね上がるでしょう。
すでに東京23区では『億ション』があふれ、その流れは浦和、川崎、船橋といった周辺都市にも波及しています。地方でも中心部で1億円超えの物件が出始め、東京・多摩エリアの一戸建ても4000万円台では八王子ですら購入が難しい状況です」
そこに、今回の建材費高騰の影響が加わった。
「新築の購入可能エリアは、より郊外へ押し出されていくことになるでしょう。同時に、すでに建物が存在し、建材費高騰の影響を直接受けない中古物件に需要が流れます。
ただし、築古(ちくふる)物件は改修コストの上昇分が販売価格に転嫁されます。結果として、リフォームの必要がない『築10年未満』といった築浅物件などが値上げの影響を受けにくい物件として需要が高まる可能性があります」
2021~22年頃に起きた木材不足(ウッドショック)は、建設業界に大きなダメージを与えたが、今回の石油危機は「それを上回る可能性があります」と白都社長は言う(写真は在庫が減った、ある木材商社の倉庫)
【深刻なシンナー不足】
問題は価格高騰にとどまらない。建設現場では今、”箱(建物)は完成したが、塗装ができない”という異常事態が起きている。
その元凶となっているのが、塗装に使うシンナーの枯渇だ。「うすめ液」とも呼ばれるこの溶剤は、塗料の粘度を程よく下げ、均一な塗装を可能にする。塗料販売会社の組合関係者は、窮状をこう明かす。
「メーカーによって差はありますが、値上げ幅は軒並み70%超。中には卸値を3倍に引き上げたメーカーもあるという話も耳にします」
価格以上に深刻な問題はやはり供給不足だ。塗装施工の業界団体の幹部がこう話す。
「すでに値上げ局面を通り越し、出荷制限に入っています。3月末時点で、10缶発注しても届くのは3缶程度。メーカー各社の出荷量は昨年の半分以下に落ち込んでいます。メーカー側からは、『4月以降の供給は不透明。最悪は供給停止もありえると覚悟してほしい』と告げられています」
住宅建築の「仕上げ」ともいうべき、塗装の従事者はシンナー不足に苦しんでいる。写真は一戸建て住宅の外壁を塗る塗装職人
このあおりを受け、プロ向けの建材店では、買い占めによる欠品が相次いでいる。
背景にあるのは、深刻なナフサ不足だ。
原油から得られるナフサの割合は約25%。そこから分解炉で加熱・分留されるが、ナフサから取り出せる物質の成分の比率はあらかじめ決まっている。
「プラスチック原料となるエチレンやプロピレンが6割以上を占めるのに対し、シンナーの主原料であるトルエンやキシレンは、わずか5%ほど。もともとの生産比率が低い上、揮発性が高く、長期保管にも向かない。供給網が目詰まりを起こすと、すぐ不足します」
シンナーは代替も難しい。
「塗料を替えれば、防水性や耐候性、防カビ性といった性能に直結します。性能試験や発注者の合意が必須で、現場判断で切り替えられるものではありません」
追い詰められた現場では、苦肉の策が広がっている。ある塗装業者がこう話す。
「仕上がりを維持できるギリギリまでシンナーの添加量を削ってしのぐしかありません。塗装用具の洗浄も本来は作業ごとに、あるいは色を替えるたびに新しいシンナーを使って油分を落としますが、今は汚れた溶剤の使い回しです。これ以上の節約を強いられたら、塗りムラや色みのバラつきといった施工不良を引き起こしてしまいます」
現場が次に警戒しているのが、塗料の主成分である樹脂の動向だ。
「樹脂は、”液状のプラスチック”です。乾燥して固まることで強固な塗膜となり、建物の耐久性や防水性を担保する。
業界内では『シンナーの次は樹脂が止まる』との見方が強く、主要メーカーからいまだなんの音沙汰もないのが、かえって不気味でなりません。ここが細れば、建物の性能維持そのものが危うくなります」(前出・業界団体幹部)
問題はここで終わらない。
建設資材の価格調査を行なう経済調査会の調査部長がこう話す。
「あらゆる鉄製の部材は、さび止めペイントを塗ることが必須です。未塗装のまま雨にさらされればわずか数日で赤さびが浮き始めます。ですが、さび止めペイントもナフサ由来の化学製品。すでに出荷制限の動きが出始めています。
供給不安が長引けば、マンション、オフィスビルから物流センター、データセンターに至るまで、着工や工程に大きな影響が出る可能性があります」
【コンクリート危機】
建物の基礎を支えるコンクリートにも異変が起きている。
生コンクリートには、JIS規格で定められた「90分ルール」がある。工場で練り混ぜてから現場で打ち込みを終えるまでを、原則90分以内とする制限だ。生コンは練り上がりから2時間ほどで固まり始めるため、この時間が施工可能な物理的限界となる。
この「90分」を支えているのが、ナフサ由来の「混和剤」だ。化学メーカーの営業担当者がこう話す。
「混和剤はセメント粒子を分散させ、強度を保ちながら硬化を適切に遅らせます。施工性と品質を両立させる、生コンの中核材料です」
だが、その供給網はすでに目詰まりを起こしている。
「複数の原材料メーカーから価格改定に加え、5月以降の出荷停止や供給制限の可能性が通告されています」
混和剤は代替がないし節約もできない。シンナーのように現場で量を減らしてしのぐ手段も、「厳格なJIS規格が許さない」。このまま不足すれば当然、「生コンは運搬中に固まり出すので、90分の猶予はなくなり、現場での施工が難しくなる」という。同担当者はこう顔を曇らせる。
「正直、来月どうなるのかも読めません。1970年代のオイルショックに匹敵する、あるいはそれ以上のインパクトになる可能性もあります」
前出の経済調査会の調査部長がこう続ける。
「今、ビルを解体しても新しく建てられないといった、プロジェクトの停滞が各地で起きています。その影響は、建設大手50社の『手持ち工事高』に顕著に表れています」
手持ち工事高とは、受注済みでありながら未着工、あるいは途中で止まっている工事の総額を指す。その規模が昨年に一気に膨らみ、「18兆円を超えた」とのこと。
「これまでは深刻な人手不足が主な要因でした。しかし、そこに今回、資材不足が重なりました。このままでは、工事がさばき切れず、工事高はさらに膨らんでいく可能性があります」
【「入札」制度のまひ】
危機は公共工事にも広がり始めている。象徴的なのが、道路舗装に不可欠なアスファルトだ。原油を精製してガソリンやナフサを取り出した後、最後に残る「ストレートアスファルト」を直接の原料とする。今、その価格がかつてないほど跳ね上がっていると、経済調査会の調査部長は指摘する。
「3月上旬時点で1立方メートル当たり約9万7000円だった価格は、今後、13万~15万円台まで高騰する可能性が極めて高いです」
道路、トンネル、橋梁(きょうりょう)など、インフラの根幹を支える資材の暴騰は、公共工事の「入札」という仕組みをまひさせている。中堅ゼネコンの幹部がこう明かす。
「各地の公共工事の入札現場では、『不調(応札者なし)』が多発しています。役所の積算が現実の物価にまったく追いついていないからです」
どういうことか。
「役所側が提示する積算価格は、実勢価格に合わせて月単位などで改定される仕組みです。しかし、今起きているのは、その改定ペースをはるかに上回る日単位の値上げ。改定されたばかりの積算価格ですら、実勢価格とは大きな乖離がある。
受注すれば赤字が確定する以上、業者は応札できません。積算を高頻度に見直すにしても、その価格の妥当性を誰が、どう担保するのか、という役所的な公正性が立ちはだかる。この仕組みを抜本的に見直さない限り、公共工事の入札不調ラッシュは止まらないでしょう」
【施工会社を見極める】
資材高騰の余波は、最終的に個人の住まいに跳ね返る。
今、現場で起きているのは、契約後に発生した想定外のコスト増を誰が負担するのか? という問題だ。
すでに契約を終え、着工や完成を待つ段階で資材価格が急騰した場合、その増加分を施主(注文主)と施工会社のどちらが引き受けるのか。そこに明確なルールはなく、「各社で判断が分かれる上、決めかねている施工会社が多い」(都内・工務店社長)のが実情だ。
前述のとおり、足元では住宅1棟当たり約5%のコスト増。4000万円の物件であれば、200万円の追加負担となる。施主にとっても重い負担だが、施工側のダメージはより深刻だ。前出の工務店の社長がこう続ける。
「弊社の場合、契約済みで引き渡しを待つ案件が数十件ありますが、コスト増の総額は1億円近くに上ります。これを価格に転嫁できなければ、会社の利益は瞬時に消し飛ぶ。どこまで施主さまにお願いし、どこまで自社で抱えるか。その判断を誤れば、一気に立ち行かなくなる工務店が続出するはずです」
人手不足と資材高騰で、現場はすでに回らなくなりつつある。そこに今回の石油危機が重なった。今、建設業界では「あきらめ倒産」という言葉が、かつてない現実味を帯びて現場に響いている。そして、そのしわ寄せは、ユーザーへと及ぶ。前出の白都氏がこう話す。
「施工途中で会社が倒産すれば、住宅は未完成のまま、施主にはローンの返済だけが残ります。さらに、工事を別の建築会社に引き継いでもらうために、追加で数百万円、場合によっては1000万円を超える費用を施主が負担せざるをえないケースも珍しくありません」
では、この局面でどう動くべきか。白都氏はふたつの視点を挙げる。
「まず、すでに契約している方は、資材価格は一気に上がるのではなく段階的に上がるので、できるだけ早く打ち合わせを進めるべきです。一方、これから検討するという方は、焦って動く必要はありません。様子を見ましょう」
そしてもうひとつが、施工会社の見極めだ。
「今回のような局面では、施工会社の体力がそのまま施主側のリスクに直結します。資材高騰の状況をきちんと説明し、社内で明確な対応方針が共有されているかは大前提。その上で、安定した財務基盤があるのかをチェックしてください。
目安となるのは、手元の現預金が月商の数ヵ月分確保されているか。それが、不測の事態でも工事を完遂できる健全性の指標になります」
建設業界の石油危機で、特に家を建てる人には、より慎重な立ち回りが求められるようになったと言えるだろう。



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