アメリカのEVバブル崩壊
EV需要は思ったほど伸びず2026年度は前年比62%減となった。
EVへ突き進んだビッグ3に訪れた大きな誤算
数年前までアメリカの自動車産業では、EVへの移行は避けられない未来と考えられていました
GM、フォード、ステランティスというアメリカのビッグ3も巨額の資金をEVと電池工場へ投入し、2030年前後には新車販売のかなりの部分がEVへ移行することを前提として生産体制を組み替えていました
しかし2026年にそのシナリオは大きく修正され、EVそのものが消えたわけではありませんが、少なくともアメリカでは「ガソリン車から短期間でEVへ一気に移行する」という状況ではなくなった
予想が外れ、ビッグ3はEV投資を縮小しながら、ガソリン車やハイブリッドを再評価する方向へ動いています
その象徴がGMでハイブリッドを長期間続けるより、その段階を飛び越してEVへ直接移行する戦略を進め、多数のEVと専用電池工場へ巨額投資を行いました
しかしEV需要は想定した速度では拡大せず、2026年第3四半期のGMのアメリカにおけるEV販売は前年同期比62%減となっています
前年には7500ドルの連邦EV税額控除が終了する直前の駆け込み需要があったため単純比較には注意が必要ですが、2025年9月の税額控除終了後にアメリカのEV販売が急速に減速したことは明らかです
さらにGMが低価格EVの切り札として投入した新型シボレー・Boltにも誤算が生じています
当初は約15万台の生産が想定されていたものの、現在の生産見通しは約3万5000台に縮小され、約75%もの減少となりました
GMは2025年半ば以降、EV関連で累計109億ドルの費用や評価損を計上し、一部のEV生産設備をガソリン車生産へ転換しています
GMがEVを完全に捨てたわけではなくLGとの電池工場では、より低コストな次世代電池の生産準備を進めている
EVを大量に作る戦略から「価格を下げ、採算の取れるEVを作る戦略」へ変わりつつあります
フォードも同じ問題に直面しています
同社はF-150 Lightningなど大型EVを投入し、EVと電池工場に莫大な資金を投じてきましたが、大型電動ピックアップを中心に販売は期待ほど伸びませんでした
EV需要が落ち込んだことを受け、フォードはガソリン車、ハイブリッド、EVを組み合わせる戦略へ修正し、EVについては大型高価格車よりも低価格EVを重視する方向へ転換しています
現在は中国メーカー並みのコスト競争力を持つ低価格EVの開発を進める一方、電池では中国CATLの技術を利用するミシガン州の工場も活用しています
フォードのジム・ファーリーCEOが中国メーカーの競争力を繰り返し警戒していることからも、EV競争の問題が単なる販売台数ではなく「中国メーカーと同じ価格で作れるのか」という段階へ入ったことが分かります
そして最も大きく方向転換した一社がステランティスです
クライスラー、Jeep、Ramなどを傘下に持つ同社はEV関連計画の見直しに伴い約270億ドル規模の評価損を計上し、インディアナ州で計画していた大型電池工場の一部も停滞しています
さらに北米向けの電動Ram 1500ピックアップについても、フルサイズEVトラックの需要低迷を理由に開発を中止しました
その一方でステランティスはV8エンジンを搭載する大型ピックアップなどを再び前面に押し出しています
わずか数年前までEVへの移行を強調していたメーカーが、再び大型ガソリン車を重要商品として扱い始めたことは、アメリカ自動車市場で起きている変化を象徴しています
EVの「急速な全面移行」は起きなかった
これほど大きな修正が必要になったのか、最大の理由は価格です
2026年8月のアメリカの新車平均取引価格は約5万89ドルまで上昇しており、そこへさらに高価な大型バッテリーを搭載するEVは一般家庭にとって簡単に購入できる商品ではありません
特にアメリカで人気の大型SUVやピックアップをEV化すると巨大な電池が必要になり、価格と重量が急増します
さらに牽引時の航続距離や充電時間への不安もあり、ガソリンの大型ピックアップを使ってきた消費者を一気にEVへ移行させることは難しいことが分かってきました
政策要因では2025年9月に最大7500ドルだったEV購入時の連邦税額控除が終了し、2026年には燃費規制そのものも大幅に緩和されました
新しい規制では2031年の平均燃費目標が従来予定されていた50・4mpgから34・9mpgへ引き下げられ、メーカーが規制対応のため大量のEVを販売する必要性も小さくなっています
米運輸省の試算では、この規制変更によって2031年までにGMの技術対応コストは204億ドル、ステランティスは66億ドル、フォードは58億ドル減少するとされています
皮肉なのがハイブリッドの存在でGMをはじめ一部の欧米メーカーは、ハイブリッドはEVへ移行するまでの過渡的な技術と考えていました
ところが実際の市場では、充電設備を必要とせず、ガソリン車より燃費が良く、EVより価格を抑えやすいハイブリッドが消費者にとって非常に現実的な選択肢となりました
2026年第3四半期にはGM、フォード、ステランティスを合わせたデトロイト3社のアメリカ市場シェアが約36%まで低下すると推計される一方、トヨタやホンダなどハイブリッドを豊富に持つアジア系メーカーが販売を伸ばしています
トヨタは同四半期に米国で63万3223台を販売し、GMの67万974台との差を大きく縮め、カローラ・ハイブリッドの販売は前年同期比約36%増加しました
EVは今後も自動車市場の重要な技術であり、GMもフォードも開発を続けています
問題だったのは技術そのものよりも、消費者が短期間でEVへ移行すると考え、需要が十分に形成される前に巨額の工場や生産能力を準備してしまったことです
しかもその間に中国ではBYDをはじめとするメーカーが低価格EVを大量生産できる体制を構築し、欧米メーカーとの差を急速に縮めました
アメリカ市場は高関税や中国製車両への規制によって守られていますが、フォードのファーリーCEO自身が中国メーカーへの警戒を強めているように、今後のEV競争では単にEVを作れるだけでは足りません
安く、大量に、利益を出しながら作れることが必要になります
現在ビッグ3に起きているのはEVからの完全撤退ではなく、数年前までの楽観的なEV戦略からの撤退です
ガソリン車を残し、ハイブリッドを増やし、EVは採算性の高い分野に絞るという現実的な戦略へ戻り始めています
そして結果的に市場の変化に対応しやすかったのは、EV一本に賭けずハイブリッドを残してきたトヨタやホンダでした
アメリカのEVブームが残した最大の教訓は、「次の技術が登場すること」と「消費者が一斉にその技術へ移行すること」は同じではないということなのかもしれません



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