日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が本サイトで現代のトレンドを徹底解説。デジタルネイティブなZ世代が“若害化”している意外な理由とは?

 Z世代がパソコンを使えない問題が、社会的な課題として浮上しています。

 デジタルネイティブ世代と称される1996年から2012年生まれの若者たちですが、その多くがスマートフォンは使いこなせても、パソコン操作には苦手意識を持っているのが現実です。実際、新入社員の多くがExcelやWord、PowerPointの基本操作でつまずき、業務上のデジタルスキル不足を露呈。企画書作成でセルの結合や数式入力ができずに、同僚に助けを求める場面も多いとか。ネット上でも、「若手社員がExcelのセルの結合に苦戦していて驚いた」「普段、中年世代に“何でも新しいのに対応しろ”とバカにしてるのに、パソコンくらい使えるようになれよ」といった上司からのあきれ声も聞かれ「老害」ならぬ「若害化」しているといいます。

 生まれた時からインターネットに囲まれて育った若者たちですが、実際の「デジタルスキル」はスマートフォンに偏っており、パソコンを自由に使いこなす力を十分に備えているとは言い難いのが実情のようです。

 ある調査によれば、72.4%のZ世代がインターネット接続なしの生活を想像できないと答えていますが、そのほとんどがスマホ経由。スマホ1台で多くのことが完結してしまうため、パソコンを使う機会が激減しているのです。つまり、スマホの利便性が逆にパソコンスキルの育成を阻害しているとも言えるでしょう。

「初めてのオンライン会議で画面共有の操作がわからず恥をかいた」「スマホなら簡単なのに、パソコンだと複雑すぎる」と戸惑う若者たちの中には、テック・シェイム(パソコンやオフィス機器をうまく使えないことが恥ずかしいと感じること)を抱えている人もおり、期待とのギャップがプレッシャーになっているケースも少なくありません。

 また、若者がパソコン操作を苦手とする理由として「経験不足」が挙げられます。学校教育のICT環境は海外に比べて遅れをとっており、日本の多くの学校では、パソコンの授業が月に1度程度。タブレットが配布されても、キーボードやマウス操作の実践機会が足りていません。その結果、就職後に求められる実践的なパソコンスキルを、十分に習得できていない若者が増えているのです。

 逆に、中高年世代は「パソコン」に移行する前に「ワープロ」に触れていたこともあり、そこでタイピングスキルを身につけた人も多くいます。そのため、できない若手を見ると、余計にイライラしてしまうのかもしれません。

「報告書作成やデータ集計など、基本的なビジネススキルの欠如は業務効率に大きく影響し、新入社員のパソコンスキル不足は企業にとって深刻な問題です。大学時代の課題やレポートはおろか、卒論までもスマホで作成していたという人も珍しくありません。最近では、新入社員研修にパソコン基礎講座を組み込み、実践的なスキル習得を促す企業も増加しています。Z世代の特性を理解し、効率的にスキルを身につけられる環境整備が急務となっています」(ある企業の人事担当者)

 かつて“パソコンができない”といえば中高年世代を指していたものですが、今やその構図は逆転。しかし、これは悲観すべきことではありません。Z世代は柔軟な発想力と吸収力に長けており、環境さえ整えば、パソコンスキルも急速に習得できるポテンシャルを持った世代です。スマホに特化したデジタルネイティブだからこそ、その感覚を活かした新しいIT教育や研修メソッドが有効に働くはず。

 必要なのは「できない」ことを責めるのではなく、「できるようになる」ための導線を丁寧に整えること。パソコンスキルを身につけたZ世代が、次代のデジタル社会を力強く牽引していく。そんな未来はそう遠くはないでしょう。