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ひと足先に”油が足りなくなった国々”のリアルな日常

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マニラ市内の様子 エネルギー

ひと足先に”油が足りなくなった国々”のリアルな日常

ガソリン価格が2倍、電気は一日に4・5時間に制限、食品値上げや交通機関が減便という状況

依然として緊迫するイラン情勢。その余波で、原油高と供給不安が世界各国に広がっている。中でも影響が早く表れているのが、原油の中東依存度が高いアジアだ。

日本ではまだ大きな混乱は見られないが、ひと足先に揺れ始めた国々の様子はどうなのか。現地に住む方々に聞いた!

【フィリピン】交通機関がマヒ!

アジア各国の生活の現場で、原油危機はどんな変化をもたらしているのか。

まずはフィリピン。首都マニラ在住の澤田公伸さんはこう話す。

「フィリピンは原油や石油製品の大部分を海外からの輸入に頼っているため、イラン情勢による原油問題は連日のように報道されています。危機感が非常に強い印象です。

特に燃油価格の上昇や備蓄量(現在の備蓄量は約50日分)、物価高騰、政策金利の引き上げなどが最近もトップニュースになっています」

実生活への影響は?

「すぐに変化があったのは燃油価格です。軽油価格は前年に比べてほぼ倍増しました。結果、多くの公共交通機関の運行に支障が出ています」

フィリピンのマニラでは、燃油価格の高騰でバスの便数が減り、鉄道に利用者が流れ込んでいる。帰宅ラッシュ時は駅に入場規制がかかるほどの密度になるフィリピンのマニラでは、燃油価格の高騰でバスの便数が減り、鉄道に利用者が流れ込んでいる。帰宅ラッシュ時は駅に入場規制がかかるほどの密度になる

同じくマニラに住む杉田さんも、公共交通機関への影響が大きいと話す。

「もともと去年からのインフレやペソ安の影響もあって、ギリギリでやっていた運転手が多かった中での燃油価格の高騰ですから、仕事を続けられず、廃業に追い込まれた方が多いと聞きます。

その影響で、30分待ちだったバスが1時間半待ちになったり、すぐつかまるのが利点だったジープニー(軽油で走る小型乗り合いバス)もなかなかつかまらなくなったりしています。それでも、利用する客の数は変わらないので、どれに乗ろうにもすし詰め状態です」

フィリピンの庶民の足であるジープニー(軽油で走る小型乗り合いバス)。軽油価格の高騰で便数が減り、以前よりつかまえにくくなったフィリピンの庶民の足であるジープニー(軽油で走る小型乗り合いバス)。軽油価格の高騰で便数が減り、以前よりつかまえにくくなった

そうした中、別の移動手段が注目されているという。

「フィリピン人の関心が電動の乗り物に向かっています。フィリピンではトライシクルという、バイクにサイドカーをつけた乗り物もタクシーのように使われているのですが、そのバイク部分がE-Bikeという電動自転車に置き換わっているのをよく見ます。

ただ、E-Bikeは免許を必要としない上に、急増したことで事故が多発しており、最近、大きな主要道路では走行禁止になりました」

 

澤田さんによれば、政府は公共交通機関の運転手に走行距離に応じた助成金支給や支援金給付などを開始。混乱はいったん落ち着きつつあるという。

「それ以外にも、政府は通勤やオフィスでのエネルギー消費を減らすため、自治体職員は週4日勤務態勢に移行しており、フィリピンの主要産業であるコールセンターなどのBPO業界でも、リモート勤務を広げやすくする措置が取られています。また、モールなどの商業施設が午前11時始業へと繰り下げて、時短営業に移行しています」
 
そんなフィリピンの今後について、澤田さんはこうみる。

「政府はこの原油危機を受けて、これまでどおり米国や日本など同志国との協力関係に依存するだけでなく、南シナ海で対峙してきた中国やロシアとの関係改善に踏み切るなど、全方位的な外交政策にかじを切りつつあります。

しかし、簡単に乗り切れることはないと思うので、国民の協力を得ながら、燃油や電気を節約することが大切だと思います」

【バングラデシュ】計画停電で節電

バングラデシュ在住のMasaさんは「バングラデシュは、エネルギーのほとんどを輸入に頼っているため、かなり深刻な状況です」と語る。

「現在はいくらか落ち着きつつありますが、ガソリン不足は続いており、朝4時にガソリンスタンドの列に並び、夕方4時にようやく2Lだけ給油できたという人も。それでもまだいいほうで、長時間並んだにもかかわらず、その日は給油できずに帰る人もいるそうです」

バングラデシュの首都ダッカのガソリンスタンドにできた長蛇の列。現地では、半日並んで、ようやく2Lだけ給油できた人もいたというバングラデシュの首都ダッカのガソリンスタンドにできた長蛇の列。現地では、半日並んで、ようやく2Lだけ給油できた人もいたという

燃料不足は、電力供給にも影響している。

「1日のうち電気が使えるのは5、6時間だけと定められる日も少なくありません。実際、私の自宅でも朝9時から夕方5時まで停電した日もありました。

また、政府は節電のために、商業ビルやオフィスビルに対して、午後4時までの営業にするよう発表が出されています。中には守らないビルもありますが、夜7時にはほとんどのお店が閉まっています」

事態は深刻そうだが、人々は落ち着いているという。

「もともとバングラデシュはエネルギー不足に慣れている国なので、街中でパニックなどは起きていません。大規模な街頭デモにも至っていないのは、『これは世界的な危機だ』という認識が広まっているためだと思います」

 

【タイ】外食文化に影響は?

タイでは大きな混乱はない。ただ、首都バンコクの暮らしにはじわじわと値上げが入り込んでいる。バンコク在住のバンコさんはこう話す。

「一番影響を感じるのは、やっぱりガソリン代と電気代です。デリバリー文化が盛んなバンコクですが、配送料や商品価格が少しずつ上がっています。

屋台での食事も高くなっていて、私の近所の屋台は、ガパオライスが50バーツ(約210円)から55バーツ(約230円)、カオマンガイが45バーツ(約190円)から50バーツ(約210円)になりました。それでも、根強い外食文化ですから、屋台やデリバリーを控える傾向にはありません」

タイのガソリンスタンドでは、3月にパニック買いにより一時的に燃料切れに。「燃料を配送中です」という看板が掲げられたタイのガソリンスタンドでは、3月にパニック買いにより一時的に燃料切れに。「燃料を配送中です」という看板が掲げられた

3月にはイラン情勢が連日トップニュースで扱われていたが、今は少し落ち着いてきているという。

「メディアのトーンとしては、じわじわと追い詰められているという警戒感があります。それに対し、政府が『108日分の備蓄があるから大丈夫だ』と火消しに走る発表もよく見かけます。

節電に関して、政府からは今のところ義務ではなく、協力のお願い程度の指示が出ています。面白いのは、役所が率先して『不要な電気を消す』『室温設定を上げる』『オンライン会議を優先しよう』などといったキャンペーンをやってアピールしていることです。

また、政府が電気代節約のために『屋根にソーラーパネルを置くのを支援する』という報道も出ています」

【インドネシア】産油国なのに……

産油国のイメージもあるインドネシアだが、首都ジャカルタ在住の長野綾子さんは、その実態をこう語る。

「インドネシアは石炭とLNGはあるのですが、実は石油やガスを精製・加工する技術が未発達で、そのほとんどを海外に輸出しています。そのため、日常生活に直結する石油、石油製品、LPGは海外から輸入しているんです」

つまり、資源国だからといって、生活に使う燃料が十分にあるわけではないのだ。とはいえ、現時点で街が大混乱しているわけでもないという。

 

「インドネシアではガソリン価格の値上げがあると、通常は反対デモが各地で起きますが、今回はそのようなニュースはあまり目立っていません。『仕方がない』『様子を見るしかない』という雰囲気があるためだと思います」

石炭やLNGを産出するインドネシアでも、石油製品は輸入に依存している。原油高はプラスチック価格にも波及し、小規模事業者にも影響を与えている石炭やLNGを産出するインドネシアでも、石油製品は輸入に依存している。原油高はプラスチック価格にも波及し、小規模事業者にも影響を与えている

では、燃料価格はどうなっているのか。

「車をよく使う人や中高所得者層が選ぶ燃料は、1L当たり日本円で約180円から250円台まで上がっています。

一方で、バイク利用者や低所得者層が使うことの多い燃料は、政府が補助金で価格を抑えているため、1L当たり約60円から90円ほどに据え置かれています。

補助金付き燃料の価格が据え置かれていることもあり、少し楽観的な空気が流れています。ただし、長距離通勤をする人や車をよく使う家庭、物流関係の人たちは値上がりに敏感に反応しています」

そんなジャカルタではEVへの関心も高まっている。

「ジャカルタでは、渋滞緩和や排ガス抑制のためにナンバープレートの奇数・偶数規制があります。日付とナンバープレートの末尾の数字が奇数か偶数かで、ジャカルタ中心部などの対象エリアを走れるかどうかが決まる制度です。私の感覚では、渋滞が解消されているとはほとんど感じませんが……。

実は、EVはこのナンバー規制を受けないという優遇措置があるんです。政府がEVの普及を奨励しているためです。

現状、充電できるエリアは不足しており、ほとんどのEVが近距離や街中だけで乗る車として使われていると思います。ただ、ガソリンがさらに値上がりするとなれば、乗り換えを検討する人は増えると思います」

【ベトナム】政府が素早く対応!

ベトナムでは、政府の対応が比較的早く打ち出されている。現地在住の新妻東一さんはこう話す。

「ベトナム政府は国家備蓄を15日分から90日分に増やす方針を示し、日本や韓国にも支援を要請しています。また、ロシアとの原発協力覚書の締結、公共交通の無償化、燃料関係の税金をゼロにするなど、積極的に対策を打っている印象です」

それでも、燃料価格の上昇は避けられなかった。

 

「ガソリンやディーゼル燃料の価格は、2月に比べて30~50%ほど高い水準で推移しています。3月初旬には、給油所で『ガソリンはありません』という表示が出たり、1回の給油が5万ドン(約300円)分までに制限されたりするなど、一時的な混乱もありました。

ただ、政府が燃料関連の税金を下げるなど早めに対策を打ったことで、現在、供給そのものは安定しています」

政府による節約に関する呼びかけもあった。

「3月当初は在宅勤務の推奨や、不要不急の出張取りやめなど、IEA(国際エネルギー機関)が推奨する節約策が呼びかけられました。
 
また国際線に減便はありませんが、国内線は2割ほど減便になったままです。ただ、中国もジェット燃料販売を再開していますので、航空便はいずれ正常に戻るものと期待しています」

ベトナムで電動バイクのバッテリーを交換している。東南アジアではガソリン代の影響を受けない電動バイクやEVへの関心が高まっているベトナムで電動バイクのバッテリーを交換している。東南アジアではガソリン代の影響を受けない電動バイクやEVへの関心が高まっている

現在も、街の空気は落ち着いているという。

「供給パニックが起きているようには見えませんし、価格上昇はやむなしと考えている人が多いのでしょう。

ちなみに、『ガソリンを使わない電動バイクやEVを買ったほうが得だ』という声が出ており、ベトナム製の電動バイクやEVの売れ行きが好調だと聞きます。

むしろ燃料高をきっかけに、車両のEV化は進むと思います。ただ、ベトナム製はそれほど生産能力があるわけではないので、中国製が売れるだけになると危惧されています」

【スリランカ】節電に慣れてる国民

日本と同じく、海上輸送と輸入エネルギーの状況に大きく左右される島国のスリランカだが、実は過去にも似たような危機を経験している。

スリランカ在住の高橋さん(仮名)はこう話す。

「スリランカでは2022年に経済危機があり、そのときも燃料不足や物価高騰が起きたので『またか』という感じです。

ただし、前回の経済危機は政府の失策という批判が多く、暴動や政権交代につながりましたが、今回は国際情勢によるやむをえない要素が強いと国民に受け止められています」

 

とはいえ、生活への影響は、すでに光熱費に表れている。

「電気料金は4月から使用量に応じて4.3~7.2%値上げ、大口使用者は25%以上の値上げです。ガスは3月から段階的に引き上げられ、5月6日時点で合計35%値上げされています」

スリランカの政府職員が節電対策で照明やエアコンを使わずに働く様子。同国では4月から電気料金も大幅に引き上げられたスリランカの政府職員が節電対策で照明やエアコンを使わずに働く様子。同国では4月から電気料金も大幅に引き上げられた

ガソリンについては、給油のルールも変わっている。

「QRコードを使用した配給制になっており、加えて日ごとに車のナンバーが偶数か奇数かで給油できる仕組みです。ナンバーチェックはあまり厳格ではないらしいですが。

その影響で、バス料金は12%値上げされました。また、自分が使っているタクシーアプリでは、3輪タクシーの初乗りが約200ルピー(約100円)から250ルピー(約125円)と25%高くなりました。

日本円にすると安いと感じますが、住民にとっては大きな違いです。加えてデリバリーサービスの配達料金も10%前後上乗せされています」

節約策は、働き方にも及んだ。

「3月18日から4月8日まで、政府機関や司法機関、学校は、一時的に週4日制(土日に加えて水曜も休み)が導入されました。公共機関に対しては義務として課されましたが、民間部門に対してはお願いベースでした。

ただ、シンハラ・タミル正月前の時期だったこともあり、水曜日に買い物に行く人が増えて、かえって街中が混雑し、個人的には、エネルギー節約効果はあまりなかったように見えます」

こうして海外の事例を見ると、原油危機の影響はガソリンだけにとどまらない。燃料価格、物流費、電気代、食料品、公共交通、勤務形態など、生活のいろいろな場所に表れている。今は平気そうな顔をしている日本だが、われわれも節電や移動の見直しを考える日が来るのかも?

 

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