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カルビーの白黒印刷問題、ナフサは確保していると政府の発言がなぜ民間の実感とズレるのか

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ナフサ エネルギー

カルビーの白黒印刷問題、ナフサは確保していると政府の発言がなぜ民間の実感とズレるのか

政府のナフサ在庫の計算方法に問題がある

カルビーは、5月下旬出荷分から、ポテトチップスのパッケージを白黒の2色印刷に変えるそうです。理由は印刷インキの調達難。インキの溶剤はナフサ由来です。

 

ナフサ、というカタカナを最初にかみ砕いておきます。原油を蒸留したときに出てくる、ガソリンより少し軽い液体のことです。家のなかのプラスチック、塗料、接着剤、合成ゴム、化粧品の容器、ペットボトルのラベル、シャンプー、医療用のチューブ、住宅の塩ビパイプ、ほぼすべての原料になります。石油化学業界では「産業の血液」と呼ばれています。

 

その血液が、2026年5月の今、一部の業界で止まりかけています。

 

きっかけは2月末の中東情勢の急変でした。ホルムズ海峡が事実上閉じた。日本はナフサ輸入の8割を中東に頼っていたので、直撃です。それでも政府は5月1日の会見で「在庫を含め、2027年まで供給を継続できる見込み」と明言しました。経済産業省の試算でも、米国・アルジェリア・ペルーへの調達切り替えと、国家備蓄65日分の放出で、年末まで持つとされています。マクロの数字としては、嘘ではありません。

 

ところが、現場の話はまったく違います。

 

なぜマクロでは「ある」のに、現場では「ない」のか。からくりは三つあります。

 

まず、政府が在庫として数えているナフサには、すでに固まった樹脂のペレットが原料換算で合算されています。ところが、現場の塗装屋さんが欲しいのはシンナーで、システムバスのメーカーが欲しいのは接着剤で、医療機器メーカーが欲しいのは滅菌チューブの原料です。一度ペレットに固めてしまった樹脂を、シンナーに戻すことはできません。冷凍した肉を生に戻せないのと同じです。「全体の量」はあっても「必要な形のもの」がない。

 

それから、日本の石油備蓄の話。250日分以上ありますが、これは法律上、ガソリン・軽油・重油のことです。ナフサは備蓄義務の対象外でした。民間の通常在庫はわずか20日分しかなかった。原油はたっぷりあるのに、建材の原料は20日で底をつく構造です。

 

そして、これが一番効いています。政府はガソリン価格を170円台に抑えるため、超過分を1リットルあたり最大48.8円補助しています。手厚い補助です。ナフサにはこの補助がありません。原油価格が高騰している状況下で、精製会社からすれば、ガソリンは作れば作るほど利益が出る、ナフサは作れば作るほど赤字、ということになります。経営判断としては、ガソリンを優先してナフサ生産を絞るのが合理的です(なお、これほど簡単で単純に生産分離はできませんが、簡略化して説明しています)。

 

実際にそうなっています。国内エチレンプラントの稼働率は4月時点で68%。統計を取りはじめて以来の最低水準です。

 

産業の血液が、政策の副作用で絞られている。

 

絞られた血液は、商社のサイロのなかでアロケーション(割当配給のことです)にかけられます。古くから付き合いがあって、量を多く買ってくれる相手から順に配られる。中小の塗装屋さんや町工場は、いくら高い値段を提示しても順番がまわってきません。帝国データバンクの試算では、調達リスクに直面している製造業の約9割が、資本金1億円未満の中小企業に集中しているそうです。

 

「商社がお客を選ぶ立場に逆転しているんですよ」。先日、ある化学メーカーの方がそう話していました。普段はこちらが頭を下げる側なんですけどね、と。

 

家計への到達は、もう始まっています。

 

戸建ての外壁塗装は、シンナー高だけで約25万円、シーリング材で約8万円、養生材で約5万円の原価増です。TOTOとLIXILがシステムバスとシステムトイレの新規受注を一時停止、もしくは納期未定としています。本体の素材ではなく、組み立てに使う接着剤と塗料と塩ビ管が足りない。リフォームの見積もりは、いま取っても確定しません。

 

医療の現場も、です。経済産業省と厚生労働省は4月、新生児医療用カテーテルや採血管の滅菌に必要なボイラー用重油について、卸を経由しない「直売」を石油元売りに要請しました。優先配分の対象が医療と重要インフラに絞られている。裏返せば、それ以外の建築・消費財・塗装の現場には、さらに回らないということでもあります。

 

本日5月12日、農林水産大臣は会見で、米袋・牛乳パック・食肉包装フィルム・水産用発泡スチロール箱・納豆容器・カップ麺容器・ペットボトル等、12項目の確保に目処が立ったと発表しました。米袋と牛乳パックは確保された、と。残りの数千品目について「目処が立った」とは、まだ言われていません。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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