ブースターなしで飛ぶ日本初の大型ロケット、H3「30形態」は何が新しいのか–きょう12日打ち上げ
打ち上げは順調に進み成功に終わった。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月12日午前9時53分59秒、H3ロケット6号機(30形態試験機)を種子島宇宙センター大型ロケット発射場から打ち上げる。打ち上げ時間帯は11時52分46秒まで。当初は6月10日の予定だったが、天候悪化が予想されたため延期され、6月10日に新たな日時が再設定された。予備期間は6月13日〜30日と7月9日〜31日。
燃焼試験の様子 ※クリックすると拡大画像が見られます
今回の機体は、H3シリーズで初めて固体ロケットブースタを装着しない「30形態」。JAXAが「打上げ価格の低減を目指した形態」と位置づける、H3のコスト戦略の本命だ。
「30形態」とは
H3は衛星の大きさや行き先の軌道に応じて機体構成を選べる設計で、形態は「H3-abc」と表記する。aは第1段メインエンジン「LE-9」の基数(2または3)、bは固体ロケットブースタ「SRB-3」の本数(0、2、4)、cはフェアリングのサイズ(S:ショート、L:ロング、W:ワイド)を示す。
今回の6号機は「H3-30S」。LE-9を3基に増やす代わりにSRB-3をゼロとし、ショートフェアリングを組み合わせた最小形態だ。これまで飛行実績のある「22形態」(LE-9×2基+SRB-3×2本)と異なり、液体エンジンのみでリフトオフする。JAXAによれば、固体ロケットブースタなしで離昇する大型液体ロケットは日本初となる。
H3ロケット30形態の概要 ※クリックすると拡大画像が見られます
JAXAは最小形態のH3-30Sを主に官需ミッション、22L・24L形態を商業ミッションに適用する想定だ。
太陽同期軌道に4トン以上の打ち上げ能力
気になる打ち上げ能力は、30形態で太陽同期軌道(SSO、高度500km円軌道)に4トン以上。地球観測衛星などの需要が多い軌道で、JAXAは「30形態の打上げで特にニーズが見込まれる」軌道としてSSOを挙げる。
H3シリーズ全体では、ブースタやエンジン基数の組み合わせにより、欧州の「アリアン5」などと同条件の静止トランスファ軌道(GTO)へ約2〜7トンの打ち上げ能力をカバーする。最大の24形態はGTOに6.5トン以上を目指し、衛星需要の大半をシングルロンチでカバーする設計だ。30形態はそのラインナップの「下限」を受け持ち、低軌道・中型衛星クラスの打ち上げを低価格で担う役割となる。
コスト削減–「軽量形態で約半額」を目指す
H3開発の柱は柔軟性・高信頼性・低価格の3つ。低価格化については、宇宙専用部品ではなく自動車など他産業の民生品を活用し、生産方式を受注生産からライン生産に近づけることで打ち上げ価格を下げる。JAXA宇宙輸送技術部門は、H-IIAの後継機としての価格目標について「固体ロケットブースタを装着しない軽量形態で約半額を目指しています」と説明しており、この「軽量形態」こそが30形態だ。
文部科学省の宇宙開発利用部会に提出されたJAXA資料でも、30形態は「太陽同期軌道4トン以上の打上能力で、打上げ価格の低減を目指した形態」と明記されている。1本あたり平均推力220トンのSRB-3を省略できることが、価格低減の鍵となる。
ブースタなしで飛ぶための新機構
固体ロケットブースターのSRB-3を省くことは、単にメインエンジンを1基足せば済む話ではない。6号機では複数の新しい仕組みが初めて投入される。
ひとつが「ホールドダウンシステム」だ。22・24形態ではLE-9が立ち上がってもSRB-3がおもりになるため機体は浮き上がらないが、30形態にはそれがない。そこでリフトオフ前に3基のLE-9が正常に立ち上がったことを確認するまで、機体エンジン部の射座金具4カ所を機構で押さえつけて拘束し、確認後に火工品(分離ナット)で4カ所同時に解放する。
ホールドダウン・システムを採用 ※クリックすると拡大画像が見られます
保持機構の概要 ※クリックすると拡大画像が見られます
また第1段燃焼の終盤には、推進剤の消費で軽くなった機体の加速度増加を抑えるため、推力を約66%に絞る「スロットリング」を行う。22形態では約20秒間だったが、30形態では約60秒間と長くなる。スロットリング自体は3号機で飛行実証済みだ。
飛行計画 ※クリックすると拡大画像が見られます
打ち上げに先立ち、種子島では実機を発射台に固縛してフライト用LE-9を燃焼させる「1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」を2025年7月24日と2026年3月15日の2回実施し、3基クラスタ構成の第1段推進系と地上設備を組み合わせた機能と性能を確認している。
実衛星は載せず「VEP-5」と超小型衛星6基で飛行実証
6号機はシステムレベルの刷新を伴う試験機のため実衛星は搭載せず、性能確認用ペイロード「VEP-5」をSSOに投入して飛行実証する。30形態は当初、試験機2号機として「だいち4号」を載せて打ち上げる計画だったが、2023年3月の試験機1号機(22形態)打ち上げ失敗を受けて計画が見直され、22形態で実績を積んだ後に30形態を実証する現在の流れになった。
相乗りする副衛星は6基。東京科学大学のPETREL(海洋観測)、静岡大学のSTARS-X(テザーによるデブリ捕獲実証)、仏UnseenlabsのBRO-22、九州工業大学などのVERTECS(宇宙背景放射観測)、BULLのHORN-LとHORN-R(デブリ化防止装置の実証)だ。
搭載する超小型衛星の一覧 ※クリックすると拡大画像が見られます
注目は新開発の「超小型衛星搭載アダプタ」。試験機2号機の搭載方式では衛星分離時などの衝撃環境条件が機軸方向4000Gと高かったが、リング形状アダプタを介して搭載することで1000G程度に緩和できる見込みで、JAXAはこれを「Falcon 9と同等の衝撃環境」としている。小型衛星の多数機打ち上げ需要を取り込むための布石だ。
8号機失敗からの「再開フライト」に
H3は2024年2月の試験機2号機以降、3号機から7号機(HTV-X1搭載の24形態)まで成功を重ねたが、2025年12月22日の8号機(22形態、みちびき5号機搭載)で打ち上げに失敗した。文部科学省対策本部の発表(2026年4月23日)によると、衛星フェアリング分離直後に衛星搭載構造の一部が損傷・破壊したことが起点で、衛星搭載アダプタ(PSS)に生じた剥離が分離時の衝撃で進展し、不安定破壊に至った可能性が極めて高いとされた。
対策として、当面の実用衛星搭載機ではファスナ結合方式、30形態試験機では補修方式の適用が妥当と判断されている。JAXAは6号機の打ち上げに際し、PSSの健全性を含めた機体の最終評価・点検を行ったうえで、後続ミッションの確実性を高めるための飛行データを追加取得するとしている。6号機は30形態の初飛行であると同時に、8号機失敗後初の「打ち上げ再開」フライトでもある。


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