煙草を吸う人はコロナに感染しにくい

タバコがコロナウイルス感染を予防することについて、過去の記事で取り上げたことがある。
広島大学の研究者が、タバコに含まれるある種の成分が芳香族炭化水素受容体を活性化し、その結果、細胞表面のACE2受容体の発現量が減少することを発見した。
同様の研究は世界中である。たとえば、

「タバコなんて吸ってると、コロナとか呼吸器感染症が重症化しやすいのではないか」と世間の人は思うだろうけど、実際のところ、喫煙はコロナ重症化の因子ではないことが示された。
というか、むしろ、以下の研究によると「タバコを吸っているほうがコロナにかかりにくい」とさえ言える。

コロナに感染して病院受診した患者(入院患者および外来患者)を対象にしたフランスの研究で、喫煙者のコロナ罹患率が低いことが示された。
あるいは、こんな研究もある。

コロナにかかった後、長らく原因不明の不調(倦怠感、記憶障害、疼痛、呼吸困難など)に悩まされる人がいる。いわゆるロングコビッド(コロナ後遺症)です。研究者は、その原因について、「コロナのスパイクタンパク(SP)がニコチン型アセチルコリン受容体(nAChR)に結合して、そのせいで不調が生じている」と仮説を立てた。さらに、「ニコチンは、アセチルコリンより30倍もnAChRに対する親和性が高い」ことから、ロングコビッドの治療として、ニコチンパッチを患者に貼ってみた。4人の患者に投与したところ、全例がニコチンパッチを貼ってすぐに改善傾向が見られ、6日以内に完全寛解に至った。しかもパッチに含まれるニコチンの含有量はわずか7 ㎎だった。それだけの量で劇的な改善が見られたわけです。
さて、ニコチンにコロナ予防効果やロングコビッドへの治療効果があるとして、それでも、多くの人は「ニコチンを治療に使うのってどうなの?」と抵抗を感じるだろう。それは、ニコチンは依存性のある有害物質だという認識があるからです。
こんな話がある。
ハーバード大学の研究者が、「ニコチンがどれほど依存性のある恐ろしい物質か、具体的に調べてみよう」ということで、実験動物を使った研究に着手した。しかし、ニコチンを投与しても動物はまったく依存性を示さない。動物を変えたり投与条件を変えたり、何度実験を繰り返しても、結果は同じ。研究者は不思議に思い、某タバコ会社に連絡をとって、タバコの含有成分について資料を請求した。その資料を読んだ研究者はひとつの事実を知ることになった。
「ニコチンに依存性はない」。そんなことは、タバコ会社はとっくの昔から知っていることだった。かつて、タバコは「大人のたしなみ」であり「男の象徴」でもあった。成人男性のほぼ半数が喫煙者だったが、1970年代になって、健康への懸念から徐々に喫煙率が低下し始めた。
そこで、タバコ会社は新たな購買層の拡大を目指した。タールが少なく、吸い口のマイルドな light tobaccoを開発し、主に女性の喫煙者を増やそうとしたが、これがなかなか売れない。何とかしてタバコの依存性を高めることができないか。
彼らが注目したのは、ピラジン(pyrazine)だった。ピラジンはニコチンと相乗的に作用することで、依存性を飛躍的に高める。これにより、light tobaccoはドル箱商品となった。これに味を占めたタバコ会社は、ピラジンを他のタバコ製品にも添加することで、売り上げ増大に成功した。
以下の論文は、このようなタバコ会社の内幕を知った研究者によるもので、論文という体裁をとりつつも、「FDAはこんな依存性物質の添加を認めてはいけない!」という社会的なメッセージのようにも思えます。

すでにタバコの効用については以前の記事で取り上げたことがある。
https://note.com/nakamuraclinic/n/n3eccd32a2cc5
一介の医者である僕がこういうことを言っても説得力がないが、いまや、アメリカの厚生長官がニコチンの有害性を否定している。

ケネディ「ニコチンが癌を起こすというエビデンスはない。それどころか、健康にいい面さえある。NIHの研究によれば、アルツハイマー病の発症を減らすことが示された」
実際、健康長寿の人には、喫煙者が多い印象です。たとえば、

122歳まで生きたフランスのJeanne Calmetさんは愛煙家だったし、

116歳まで生きたアフリカ最高齢男性のFredie Blomさんは、酒はやめてもタバコは最後までやめなかった。ただし、大手タバコ会社のタバコではなく、自分で作った手巻きタバコだった。これは重要です。大手のタバコには大量の有害物質が含まれているので。

112歳まで生きたアメリカの最高齢男性のRichard Overtonさんについては、以前の僕の記事で書いたことがある。
https://clnakamura.com/blog/2077/
1日12本もタバコを吸い、毎朝のコーヒーを欠かさない。ときには朝からウィスキーを飲むこともある。
この人もやはり、一般的なタバコではなく、葉巻(シガー)を吸っていた。
僕は以前から、タバコを吸う患者に対して、禁煙を勧めたことはありません。ただ、銘柄は聞くようにしています。「どんなタバコ吸ってるの?」
「マイセンです。電子タバコで」みたいな返事だったら、
「じゃ、アメスピとかチェに変えたら?あと、電子タバコは絶対やめたほうがいい。普通に火をつけて、ちゃんと吸ったほうがいい」と言います。
患者は、医者の僕が禁煙を命ずるどころか、妙な指示をするものだから、拍子抜けして、笑います。
あるいは、患者の病気次第では、上記のようなニコチンの有効性を説明して、ニコチンパッチを処方することもあるし、患者が昔喫煙者だったとかで、タバコへの抵抗感がないようであれば、「タバコ、別に吸ってもいいんだけどね」みたいに、さりげなく勧めるようなこともある。
50代男性
「前回、3か月前に受診したとき、先生から葉巻の健康効果のことを聞いて、それで実際買ってみました。
もともとタバコは20年以上吸ってて、でも数年前に禁煙していました。
でも葉巻って、もどかしいですね。肺に入れずに、口元でくゆらせる感じなので。それで、アメスピを買って、吸いました。
アメスピは不思議です。吸い終わって、すっきりすれば、それで終わり。また吸いたいっていう衝動が起こらない。1週間2週間吸わなくても、特にどうってことない。
昔吸ってたメビウスを、久しぶりに買って吸ってみました。昔は毎日何本も吸ってて、逆に分からなかったのですが、久しぶりに吸ってみると、化学薬品みたいな妙な味がしました。「作られた味」っていうのかな、異常な味で、しかも、吸ってしばらくすると、また吸いたくなる。明らかに、依存性を感じました。
でもアメスピは違います。朝1本吸って、夜1本吸うって感じで2カ月吸ったけど、それは時間の習慣化みたいなもので、仮に吸わなくても、我慢してるって感じにはならない。
アメスピもメビウスも、タールは同じ8㎎でも、アメスピは味が自然で、変な刺激がない。
あと、メビウスは燃焼スピードが早くて、1分くらいで吸い終わるけど、アメスピだと5分とかかかる。巻紙に助燃剤が入ってるのかな」
もちろん、タバコを積極的に勧めることはない。人間はイメージとか偏見の生き物だから、長らく「タバコ=健康の絶対悪」と信じてきた人に対して、その真逆を実践するように指示することは、抵抗感があり過ぎるだろうから。
でも僕の経験上、たとえばタバコを吸うパーキンソン病患者って見たことがないんだよね。タバコがある種の疾患に対して、明らかに抑制的に作用している。そういう例はけっこうあると思うんだけど。
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