ついに団塊世代のテレビ離れが始まった…高齢者がテレビからYouTubeに流れた根本原因

スポンサーリンク
youtube 社会問題

いに団塊世代のテレビ離れが始まった…高齢者がテレビからYouTubeに流れた根本原因

一度離れたらなかなか戻ってこない

団塊世代には商機があると思われていたが…

現在の日本を表すキーワードとしてよく登場するのが「高齢化社会」です。

少子化が進んで日本国民の平均年齢がなんと50歳を超え、日本でもっとも人口ボリュームがある団塊世代(おおむね1947~49年生まれ)が2025年に全員後期高齢者(75歳以上)となりますが、当然ながら、それはずっと前からわかっていることでした。

ですから2000年代半ば頃くらいからは、こんな“未来予測”が世の中を席巻していたと思います。「高齢者の市場(シルバー市場)を狙った企業は勝つ」

ここで言う高齢者とは、当時まだ60代だった団塊世代です。彼らはそれ以前の世代、つまり戦前生まれに比べて、歳を取っても仕事や趣味に意欲旺盛で、貯蓄額や年金額の面でも使えるカネが多い、だから商機がある――と、各企業のマーケティング担当者に思われていました。

彼らはマーケティング業界で「アクティブシニア」と呼ばれました。たくさんのマーケターがアクティブシニアの需要について期待をあおり、専門家がこぞって本を書き、講演し、企業をき付けたのです。

しかし結論から言うと、それは幻想でした。

2010年代に入って彼らが続々と定年退職し始めても、たいしてお金を使わなかったのです。

老後2000万円問題で消費意欲は一気に減退

「シニア向けの豪華な世界一周クルーズ」「悠々自適な田舎暮らしの別荘」「高額の趣味消費」。そんな商品やサービスが山ほど企画されていましたが、たいした需要は喚起できませんでした。

それどころか途中からは「老後資金2000万円問題(老後に2000万円の貯金がなければ、年金だけでは生活していけない)」などが勃発し、2022年の現在に至ります。

たけし、タモリ、小倉智昭が第一線から引退

TV業界にも、その波が押し寄せています。例えば、1947年生まれの団塊世代であるビートたけしさんは、長らく出演してきたTBS系『新・情報7daysニュースキャスター』を2022年3月で“卒業”しました。

 

約40年にわたり芸能界の第一線で活躍してきたたけしさんも、さすがにもう第一線ではなくなったということです。

ここ数年を振り返っても、たけしさんより2つ年上のタモリさんが、2014年に32年続いた『森田一義アワー 笑っていいとも!』を終わらせました。

たけしさんと同じ1947年生まれの司会者・小倉智昭さんは、22年続いた『情報プレゼンター とくダネ!』を2021年をもって終了させました。

この世代のビッグネームの“第一線引退”が何を意味するか。要は、これらの番組にCMを出広する広告主が、出演者と同世代の視聴者に「もう購買力がない」ことに気づいたということです。

だからこそ、出演者の世代交代が矢継ぎ早に進みました。もう団塊世代は「消費者としてメインターゲットではない」と各企業から判断されてしまったのです。

「人生100年時代」と言われますが、日本人の寿命はもうそれ程大きくは延びなくなってきていますし、仮に100年であったとしても、企業にとっての優良消費者である期間は元気で収入のある現役世代までの、せいぜい74歳の前期高齢者までであるのが明確になったのです。

団塊世代の消費欲を分けるのはパソコン

団塊世代は基本的に旺盛な消費欲がありません。

しかし、シラケ世代と合算して年齢幅を広げれば、そこには消費に関してグラデーションが見てとれます。つまり、比較的消費する層としない層がいる。

では、その分水れいはどこにあるのでしょうか。ズバリ、「パソコンを使えるか、使えないか」です。

2021年、全国の高齢者(60歳以上の男女640名を対象)に対し私が行った調査によると、携帯電話(ガラケー)使用者は全体の40.4%、スマートフォンは50.1%、パソコンは20.9%、タブレットは14.4%、いずれも所有していない方は12.1%でした(複数回答あり)。

約900万人いるデジタル高齢者

ここに、60代以上の人口4376万人(総務省統計局、2021年10月)を重ねて考えてみましょう。まず、全体の12.1%はデジタル難民です。人口で言えば529万人。この人たちにはTVや新聞の折込チラシ以外に、消費を煽る情報が届けられません。

彼らの5年後、10年後を見越してマーケティングを行うのは非常に難しいでしょう。残りの87.9%(人口にして3847万人)には届く可能性がありますが、高齢者は携帯電話はもちろんスマホも通話にしか使っていません。使っていても子供や孫とのLINE程度なので、企業が商品を売るために広告を届けることはできません。

可能性があるのは20.9%(900万人)を占める、パソコンを使っている高齢者です(タブレット使用者はパソコンとの併用者も多いと考えられるので除外します)。彼らはさまざまなサイトを訪れて情報収集をしますし、ネット通販もできる。つまり企業が広告を届けられる相手なのです。

この世代の男性は、先述したように会社勤め時代にパソコンを使っていました。ということは基本的にホワイトカラーですから、世代的に退職金もそこそこ多い。自宅にパソコンがあるということは、パソコンが買えるだけのお金といじれるだけの時間があることも意味します。すなわちマーケティングとして狙うべきは、この「デジタル高齢者」とでも呼ぶべき層です。

60~80代の過半数がYouTubeを見ている

情報収集していますから社会から遮断されにくく、孤立しにくい。そういう意味では、パソコンを使わない同世代に比べて幸福度が比較的高く、したがって消費意欲もまだ残存していると考えるべきでしょう。

 

心が前向きでないと消費意欲は湧いてこないものです。団塊世代~シラケ世代の消費傾向は「高齢者」として十把ひとからげにするのではなく、パソコンを使っている層(900万人)だけを狙う、というのが正解です。

ただ、パソコン使いのデジタル高齢者といえどFacebookやインスタグラムといったSNSはほとんど使っていません。比較的よく使うのはLINE、閲覧するのはYahoo!ニュース。

したがって、若年世代や新人類・バブル世代のように、Facebookでコミュニティ消費が促進されたり、トレンドに火がついたりするような現象はあまり期待できないでしょう。

実はデジタルデバイスを経由して彼らにもっとも届く広告は、YouTubeの動画広告です。意外に思われるでしょうか。でも前出の調査によれば、パソコンを持っている60~80代の56.6%がYouTubeを見ています。結構多いですよね。

パソコンを使用する高齢の男性
写真=iStock.com/recep-bg
 

団塊世代のTV離れが起きてしまったワケ

その理由は、TV局のコア視聴率シフトに関係があります。

TV局各社は2年ほど前から、従来型の世帯視聴率(TV所有世帯のうち、何世帯が視聴したかを示す割合)よりも、13歳から49歳(局によって微妙に異なります)の視聴率、いわゆる「コア視聴率」を重要視するようになりました。

そうしたのには理由があります。平成の時代はずっと人口の多い高齢者、主に団塊世代がTVを一番長く見る層だったので、彼らをメインターゲットにした番組に一番お金をかけましたし、その想定でスポンサーにお金を出してもらっていました。

ところが、ここ数年は団塊世代がそんなにお金を使ってないことが判明してしまいました。ということは、団塊世代向けの商品でTVスポットを打っても効果が少ないわけです。

であれば団塊世代は切り捨てて、番組づくりそのものをもっと若い人向けにしよう……ということで出てきたのが、「13歳から49歳の視聴率を重視」という発想だったわけです。たけしさんはじめ団塊世代のタレントや司会者の世代交代は、このようにして起こりました。

高齢者である彼らは番組のメインターゲット(13~49歳)から外され、かつ同世代出演者の世代交代も進んでいるため、見たい番組が減ってしまった。それでYouTubeに流れました。

TVが持つ慢性的な弱点

彼らはYouTubeで、好きだった芸能人の過去映像や、趣味に特化した動画などを浴びるように見るようになりました。メディア視聴習慣が変わったのです。

インタビューで採取された例としては、「クラシック音楽好きの方が海外の交響楽団の演奏を検索で探して視聴」「昔の時代劇を見る」「加山雄三のコンサート映像を観る」など。

ひとり暮らしをされている団塊世代の女性は、ジャニーズの9人組男性アイドルグループSnow Manの動画を日々あさっていました。2022年現在、TV各局はBS放送で積極的に高齢者向けのコンテンツを増やしていますが、往時の地上波ほどの充実度ではありません。

結果、高齢者がTVからYouTubeに逃げてしまっているわけです。

TVの慢性的な弱点は、好きな時に好きなものが見られないことです。若者だけでなく高齢者とてその不便は同じ。パソコンを持っている彼らの56.6%が不便を解消する方法としてYouTubeというメディアを発見したのは、当然と言えば当然です。

まだ企業が本腰を入れていないYouTube広告

ただ高齢者向けのYouTube広告は2022年現在、まだまだ発展途上と言わざるをえません。健康食品などの広告が出ていないことはないのですが、まだまだ少ない。企業が本腰を入れてデジタル高齢者を取りにいっていないのです。

原田曜平『シン世代マーケティング』(ぱる出版)

しかし2020年から続くコロナ禍で特に高齢者の外出が憚かられ、デジタル高齢者はかなり増えたと見ます。これまで、パソコンは自宅に一応あるけどろくにいじっていなかったような人が、1日中TVを見ていてもいまいち面白くないから……とYouTubeに目覚めた。そんなケースはきっと多いでしょう。

同調査によると、60代以上全体の23.3%がAmazonでの通販体験が、17.5%が楽天市場での通販経験があります。これをパソコン保有者に限定すれば、実に66.0%がAmazonで、46.2%が楽天市場で通販を経験しています(ただし60、70代のみ。80代はほとんど使っていません)。

やはり消費者として狙うべきは「団塊世代以下でパソコンを使っている人」で間違いないのです。

高齢者にはライブコマースのニーズがある

これはひとつの可能性ですが、今までTVの通販番組を見て商品を買っていた高齢者が、いずれライブコマースの顧客になることは十分に考えられます。

ライブコマースとは、弁の立つ売り手が生で動画を配信しながら商品を販売する手法のこと。売り手がタレントやインフルエンサーであることも多く、本場・中国ではものすごい一大市場を築き上げています。

高齢者は体が弱くなったり、コロナ禍が長引いて外出に不安を抱きがちなので、家にいながらにして楽しく買い物ができるサービスにはニーズがあるでしょう。

いずれ高齢者自身が配信者となって同世代に商品を売りまくる、なんてことが起こるかもしれません。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました