トラス英首相の辞任、保守党をずたずたに 国民は絶望の淵

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トラス首相辞任 世界の出来事

トラス英首相の辞任、保守党をずたずたに 国民は絶望の淵

ジョンソン前首相の返り咲きと言う話もあるが・・・

ロンドン(CNN)最近の物差しで測ったとしても、20日は英国の政治史で開いた口がふさがらない一日となった。

 

わずか6週間前にジョンソン前首相の後任に就いたトラス首相が辞意を表明した。ブレグジット(欧州連合からの離脱)支持者だった同氏の後に残るのは、財源確保のない減税による「成長計画」で起きた経済危機と、政権には残るもののその大きな力を間違いなく振るえなくなる保守党だ。

この短い期間にトラス氏の首相就任が英国政治に残した影響はあまりにも大きい。同氏の急進的な経済政策の提案は、それが実現する前から通貨ポンドをこの数十年で対ドルの最安水準へと急落させた。

この混乱で国債の利率は上昇、政府の借り入れに負の影響を与えた上、国民の年金基金も危機にさらした。利率の上昇で住宅ローンの返済額は増え、貸し手は市場から商品を引き上げ、住宅購入を望む人々の希望は一夜にして消え去った。

財政規律が長年の合言葉となっている党内からは激怒の声が上がり、トラス氏は屈服した。財務相を更迭し、内相を失い、党の分断を深めた。保守党は2016年のブレグジット(欧州連合からの離脱)を問う国民投票以来、分裂した状況にある。

トラス氏が退出するのは、もはや時間の問題だった。

分裂した派を超えて政治家が自問するのは、国民の多数が口にするだろう質問と同じものだ。一体全体、何が起きているのだ?

今はっきりしているのは、来週の終わりまでに新首相が誕生するということだ。その人物は再び保守党の議員と草の根の党員によって選ばれ、一般市民の出る幕はない。こんな状況に野党労働党は激怒し、総選挙を要求している。

だが、総選挙は行われないだろう。保守党の支持率は歴史的な低さだが、選挙日は政権が決められる事項であり、自党に不利なことをわざわざ行うことはない。

従って、保守党は再び党首選を行い、2カ月で2人目となる首相を選ぶ。ただ、少なくとも迅速にはそれを行う予定で、党の選挙管理者は来週末までに全てを終えたい意向を示している。

誰が立候補するのかはまだわからない。CNNはジョンソン前首相の支持者から、ジョンソン氏が驚がくのカムバックとも言えるものを検討中との情報を得た。わずか数カ月前に不名誉な辞任をしたにもかかわらずだ。

ジョンソン氏に近い人々は、厳しい分断状況の党を真にまとめられる人物はジョンソン氏しかいないと主張する。だが、それ以外の人々は、ジョンソン氏が首相職から遠ざけられるべき十分な理由があると即答する。

記憶が薄れつつある人のために言及すると、その理由とは同氏が直面したあまりに多くのスキャンダルだ。新型コロナウイルス流行で自らが課した規制に違反した件から、セクハラのうわさのある人物を党の要職に据える決定まで、数多くのスキャンダルに見舞われた。それが原因となり、ジョンソン氏は辞任に追い込まれた。

党をまとめる候補者は?

ジョンソン氏の元を離れたかつての支持者は、同氏を首相に据えたら保守党が攻撃にさらされるだけだと語る。高位の役職者に全くふさわしくないと証明された人物が、どうして突然、国を率いるのに最良の人物になるのかという点だ。

ジョンソン氏の復帰を恐れる保守党議員や野党労働党議員はCNNに対し、ジョンソン氏は現在、パーティーゲートと呼ばれるスキャンダルで故意に議会を誤解させた疑惑で、調査の対象になっているとも指摘する。

党をまとめられる候補としては別の人物もいる。トラス政権の要職者の一人、ペニー・モーダント氏は出馬を検討中とみられる。同氏はブレグジット支持者で党内の人気が高く、首相の職務に冷静に取り組めそうな分別ある穏健派と目されている。トラス政権下でもトラス氏のリーダーシップを公に批判し、党内に緊張が高まる時期に社会保障の給付金額をインフレに合わせて引き上げることを主張した。トラス氏を批判する人々からも評価を得られるとみられる。

スナク元財務相もいる。スナク氏の閣僚辞任が今夏のジョンソン氏辞職を引き起こしたと考えられ、前回党首選では最後までトラス氏の対立候補に残ったものの、ジョンソン氏支持者からは嫌われている。もしスナク氏が選ばれたら、党の大半の人々から人気のない人物の就任となる可能性がある。

議員と党員に人気があること、これが次の党首の極めて重要な要件となるだろう。党内ではブレグジットから財政規律まであらゆるところで分断が生じ、議会の過半数を握っているにもかかわらず事実上統治不可能な状況となっているためだ。

ジョンソン氏やトラス氏、スナク氏といった人物から人々が感じる個人的好き嫌いを別にするとしても、保守党が危機から危機へと突き進む、抑えの効かない野獣になっているという感覚は、同党が末期的な衰退を迎えている印象を与える。

保守党の議員も関係者も完全に意気消沈している。わずか数週間前のジョンソン氏の辞任とトラス氏の辞任を比べると、通りに並ぶ同僚議員もいなければ、笑顔の支持者もいなかった。わびしい、冷たい演説が静かな首相官邸前に響いた。

保守党議員の大部分が次の総選挙で勝てる見込みは全くないと感じている。総選挙の実施は政権が決められることだとわかってはいるが、それが意味するところはつまり、可能な限り権力の座に居座るということだ。風向きが良くなるかもしれないという淡い期待を抱きながら座にとどまることなる。

労働党はわずか数週間の間に、次期政権を担う党と前向きに自任していた状況から、完全に怒り狂う状態へと変化した。保守党が何の付託もなく新たなリーダーを選ぼうとしていて、国民から安定した政権を奪っているとの怒りだ。

これが今の英国政治だ。現政権は総選挙を実施しない。寛大な分析では、困難な時期に国が必要としているのは安定だと保守党が考えているため選挙を行わないとの見解が出てくるかもしれない。だが、より皮肉を効かせた分析なら、保守党は今、どれほど選挙で負けるかに恐れおののいている状況にあると示すだろう。

この後48時間以内に状況は明確になってくる。立候補者が名乗り出て、円滑な移行に向けたプロセスも提示される。だが過去1年間の英国政治にならうなら、新首相の就任に続くのは不快な状況説明や汚れた政治になるだろう。我々はもうそれに十分慣れてしまった。

単純な事実はこうだ。当面の間、英国政治の巨大な野獣が、皆ののどにつっかえる状況が続く。国の置かれた状況を考えれば、国民にとってはひどい知らせだ。

本稿はCNNのルーク・マクギー記者の分析記事です。

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