「東京でも京都でもない」食費が家計を最も圧迫している都道府県庁所在市
「実質賃金」4カ月連続プラスだが
アメリカ・トランプ大統領は15日、イランの戦闘終結に向けた協議で合意が成立したと明らかにした。しかし、この戦闘などによる価格高騰や石油由来の一部商品のモノ不足などは日本経済に暗い影を落としたことは確かで、今後も先行きは不透明です。
そうした中で、久々に良いニュースがあります。それは、年ベースで4年間マイナスが続いていた「実質賃金」がこのところ4カ月連続でプラスになったというものです。実質賃金は額面の賃金(名目賃金)の上昇率からインフレ率を引いたものです。
長く続いた実質賃金のマイナスですが、それは、たとえ賃金が額面では上がっていたとしても、それよりも物価が上昇しているわけですから、1年前と同じものを同じ数量買えないということです。子供さんなどがいる家庭では、食べ物などの数量は減らせないですから、その場合には質を落とさざるを得ないということです。
その実質賃金が4カ月連続でプラスになったというのはとても良いことです。実質賃金の上昇は国民生活が豊かになる大前提だからです。
しかし、不思議なことがあります。
伸びない消費支出
図表1は、一人あたりの賃金を表す「現金給与総額」とインフレ率[消費者物価指数(生鮮除く総合)]の昨年11月からの推移です。前年同月比の数字を載せてあります。今年に入ってからはインフレ率よりも現金給与総額の伸びが高いことが分かります。つまり、実質賃金が上がっているのです。
一方、同じ表にある消費支出(2人以上世帯)の数字を見ると、このところマイナスが続いています。この数字はインフレを加味した数字です。家計による支出はGDPの50%強を占めている重要な数字です。
不思議なことがあります。本連載で何度も述べているように、実質賃金が上がっているわけですから消費支出も伸びてもいいはずです。しかし、前年比でマイナスが続いているのです。
この理由は、将来不安が大きいからだと私は感じています。内閣府が実施した4月の消費動向調査では、1年後の物価上昇率が5%以上と予想する回答が58.1%に上っており、先行きの物価上昇への警戒感は強いと言えます。
インフレが再燃する
そして、理由は後で述べますが、現実的にもこの先インフレが再燃する可能性は高いと考えられます。そうなれば、せっかくプラスになった実質賃金も元の木阿弥でマイナスになる可能性があります。
政府はガソリンや電力・ガスの補助金で物価をある程度は抑えていますが、企業の仕入れである「企業物価」がこのところ上昇しています。今年に入り3月までは2%台でしたが、4月には4.9%まで急上昇しています。
私が代表を務めるコンサルティング会社の500社ほどの顧客は、中堅・中小企業が多いのですが、彼らを見ていても仕入れが大きく上がっているところがほとんどです。これが、消費者物価に影響を及ぼすのは時間の問題です。
一部の顧客は怒っています。とくにナフサ由来の商品についてです、政府が言う通り、総量では足りているのかもしれませんが、「目詰まり」が起きていて流通量に不安があり、価格が3割ほど、場合によっては5割以上上がっているものもあると嘆いていました。
一方、在庫を十分に確保できている会社は、実はけっこう儲かっています。原材料や仕入れる製品がなくなるとどこの会社も仕事ができなくなるので、少々高くても買いたいというところが少なくないからです。それに応じて、価格が高騰しているのです。
さらに大変なのは、購買力が十分でない会社や個人商店では、十分な仕事ができないところも出てきていることです。パン屋さんで、食パンなどの袋で以前に使ったものを持ってきてもらうと10円引きというようなことをやっているところもあると聞きます。工務店で資材が入らないので家の建築が止まってしまったという報道もありました。
いずれにしても、値段の高騰は避けられません。消費者物価の上昇は目の前まできています。
実質賃金が再びマイナスに
そうなると、せっかく実質賃金がプラスとなったのが、またマイナスとなりかねません。それを防ぐためには、賃金をさらに上げるか、物価を抑えるかのどちらかです。
賃金に関しては、日本では春の賃上げが一般的なので、今後の改定は望み薄で、おそらく前年比で3%前後の上昇が続くと考えられます。
そして、物価については、先行きの上昇が予想されています。ガソリンの補助金などがない米国では、消費者物価の上昇率がイラン戦争の影響がなかった1月、2月ともにそれぞれ2.4%でしたが、戦争後の3月には3.3%、そして4月には3.8%まで上昇しています。卸売物価は4月にはなんと6%まで急騰しました。欧州でも米国ほどではありませんがやはり物価が上昇しています。
欧米は政策金利を上昇させる可能性
利下げが取りざたされていた米国の政策金利ですが、本欄既報通り物価上昇や雇用情勢が比較的安定していることなどから、中央銀行のFRBは一転、金利を上げる可能性も出てきました。このことが、このところの日米の株価の下落やビットコインなどの下落を誘発しています。
いずれにしても、米欧で利上げが行われるとなると、円安がさらに加速する懸念があり、日銀は、インフレ阻止、円安阻止の観点から政策金利(短期金利)の利上げに踏み切らざるを得ません。現状0.75%の政策金利が、今月15日、16日の政策決定会合で0.25%利上げし、1.0%となりました。
ただし、これだけでは終わりません。0.25%の政策金利の利上げだけでは円安に十分には歯止めがかからず、インフレ抑制効果も十分でないので、政策金利は年内には1.25%となると私は予想しています。しかも、それより高い政策金利の「到達点」を予想する人も増えてきています。
さらには、日本ではガソリンなどの補助金のバラマキなどから、財政悪化懸念が大きく、高市政権発足時には1.6%台だった長期金利(新発10年国債利回り)が一時2.8%にまで上昇しました。
政策金利(短期金利)の上昇はインフレや円安阻止のためにはやむを得ない部分が大きいですが、長期金利まで上昇するとなると、企業や住宅ローンを抱える家計への負担はもちろん増大し、家計を圧迫するのです。
余談ですが、ガソリン価格をレギュラーで170円に抑えるための補助金はやめたほうがいいと私は考えています。今のやり方では、燃費の悪い高級車を乗り回す富裕層にも恩恵があります。さらに、ガソリン価格を人為的に下げれば、公共交通機関を利用することやEVへの転換などの工夫もなくなります。首相就任時に170円だったという何の根拠もない理由から、価格が決められているのも経済的には合理的な意味がないでしょう。
所得の低い層への補助金と、トラックやタクシー業者への個別の補助のほうがより望ましいのは明らかです。消費税下げも同じ理由で、所得に応じた補助金にすべきです。
所得の2極分化とエンゲル係数の上昇
そして、今後も物価の上昇は続くと考えられます。ロシアのウクライナ侵攻や中国の強硬姿勢、イラン情勢などを乗り越えたとしても世界の分断は続き、戦略物資である原油などのエネルギーやレアアースなどの資源価格、食料などの価格はそう簡単には下がりにくいと考えられます。また、地球温暖化,アフリカなどの人口増加や工業化の進展なども、食料需給やエネルギー価格に影響します。
これらのことを考えれば、物価は長期的にも上昇すると考えられます。日本では、所得の二極化も進んでおり、食費の値上がりも多くの家庭、とくに低所得層に影響を及ぼします。
それに関連して、2025年度のエンゲル係数は28.8%となりました(2024年度28.3%、総務省家計調査)。エンゲル係数は可処分所得に占める食費の割合ですが、今世紀に入り最高の数字となっています。昨年はコメも値上がりしましたが、食品価格が総じて上がっているからです。食料品価格上昇率で高いのは、しょうが(54.5%)、うるち米、コーヒー豆、チョコレート、無菌包装米飯、ほたて、たまねぎ……となっています。
そして、重要なのはこのエンゲル係数が、所得が低い層のほうがより高くなる、ということ。所得層を10分類した場合の最低層(年間収入280万円未満、平均221万円)では34.4%、最高所得層(年間収入1152万円以上、平均1554万円)では24.1%程度と推計されています。
都道府県庁所在市別のエンゲル係数(二人以上世帯)をみると、合計47市のうち27市で2000年以降の最高値を更新し、全国的に食料品価格の高騰がエンゲル係数を押し上げていることがわかっています。
最も低いのが長野市の26.0%だった一方、最も高かったのが大阪市で32.9%。大阪といえば、食い倒れの街。食い倒れとは、本来、飲食物に贅沢をして財産を使い果たすことや、おいしいものを食べ過ぎて動けなくなることを意味し、大阪の豊かな食文化を象徴する言葉ですが、このまま物価が上がり、係数も上がれば、家庭の食費・食文化にも影響が心配されます。ちなみに2位以降は、京都市、宮崎市、長崎市、那覇市となっています。
加えて心配なことは、前回記事でも指摘しましたが、とくに日本の都市部では住宅価格が高騰しており、金利上昇ともあいまって、ローン返済期間の長期化と総返済額の上昇が起こっています。将来的には住宅費用も家計を今以上に圧迫するのです。
いずれにしても、イランでの紛争の影響が今後も尾を引くなど日本の貿易環境次第では、インフレ率の上昇は避けられません。さらには長期的にもインフレは続き、給与が増えなければ家計には厳しい時期が続くと考えられます。高い給与を求めての転職が活発になるでしょう。きちんとしたプランあっての転職活動ならいいですが、やぶれかぶれ、一か八かの賭けのような行動だとすると勝算は低いでしょう。そうなると子供がいる家庭では、最悪、路頭に迷う恐れさえ出てきます。






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