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なぜ今か?ベッセント米財務長官来日に隠された時限爆弾…アメリカ人が円安に懸念すること、「緊急事態」と言われる理由

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ベッセント米財務長官来日に隠された時限爆弾 政治・経済

なぜ今か?ベッセント米財務長官来日に隠された時限爆弾…アメリカ人が円安に懸念すること、「緊急事態」と言われる理由

GDPの2倍以上と言う債務爆弾に対する懸念が産む円安

 円安が続く中で、連休中に政府日銀は少なくとも2回の大規模介入を行い、それ以外にも数回の円買いの介入を行ったようだ。介入の回数が多くなると、円は変動相場から逸脱されたとみなされて不利な扱いを受けるが、逸脱ギリギリの範囲での攻防が続いていたとみられる。相場の水準ということでは、当初は160円台への突入防止であったのが、介入の効果があった後は、156円台を巡る攻防へと移動した。

 財務省の三村淳財務官の発言から読みとれるのは、160円台への接近は投機筋による円売りであったようだ。その上で、円安に賭け続ける投機筋を最終的に離脱させるのが介入の目的だとしたら、このまま156円というラインが定着するのであれば、何とか目的は達成することになる。
けれども、その一方で重要なニュースが飛び込んできた。米国のベッセント財務長官が、5月11日から12日にかけて来日し、片山さつき財務相、植田和男日銀総裁だけでなく、高市早苗首相とも会談するというのである。

 ベッセント氏はトランプ訪中に随行する直前に、日本に立ち寄るという体裁ではあるが、この慌ただしい動きには「ただ事」ではないのを感じる。一体何が緊急であり、日米両国政府はどのように動こうとしているのだろうか。

通貨と債権のダブル安

 現状であるが、大規模介入が必要なほど円への売り圧力がかかっているのは間違いない。純粋な外為投資筋による投機の動きもあるが、それだけではなく構造的な要因が指摘できる。まず問題なのは、円だけでなく、日本国債も値下がりしており、通貨と債券のダブル安が起きているということだ。

 いずれも瞬間的であるが、40年ものの超長期国債の金利が4.5%、10年ものも2.5%など、これまで考えられなかったような金利高、つまり国債の安値が現実となっている。国債は国の借金であり、その金利が上がるというのは現在の価値が下がっているということで決して良いことではない。

 ちなみに日本株は上げているが、もはや売上利益の過半を海外で得ている日本の主要企業においては、円安になれば円建ての業績は膨張するわけで、それ以上でも以下でもない。株が上がるに越したことはないが、債券と通貨の下落を相殺するようなグッドニュースではない。日銀の市中貸し出し金利をどうするかという問題では、現時点での安易な利上げは国債金利高と連動してみられると、逆効果になりかねないわけで、植田総裁も慎重姿勢を取らざるを得ないのだろう。

 こうした国債の売りと円の売りが重なる背景には、国際市場として、日本の財政規律への懐疑的な視線がある。特に一時期の野党がこぞって「財政規律より手取り」というポピュリズム的主張を繰り返していたこと、また高市政権が「積極経済」を看板に掲げていたことは「国内総生産(GDP)の200%を超える国家債務に対して危機感が薄い」と思われたのは間違いない。

支えられていない個人資産

 構造的変化ということでは、個人金融資産の動向も無視できない。長い間、日本の国家債務がGDPの倍以上あるのは確かだが、その債務残高1000兆円超は、2000兆円を超える日本の個人金融資産によって相殺されるとしてきた。これは財務省の公式見解でもあり、国民もこれを信じてきた。

 その個人金融資産であるが、現在は額面通りに考えることが難しくなっている。消費や相続による減少は限られている。問題は、資産の海外逃避(キャピタルフライト)が本格化しているということだ。海外逃避というと、自国を信じられない途上国の富裕層が欧米の銀行に蓄財をして摘発を受けるといった印象だが、日本の場合は全く違う。

 例えば、一般人にも身近な保険会社の金融商品、証券会社の投資信託などでは、今は外貨建のものが積極的に売られており、一般の市民が普通に選択している。NISA(少額投資非課税制度)にしても同じような状況だ。個人金融資産には当たらないが、日本の公的年金資金については「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」が約250兆円の資産を運用しているが、50%は国内、50%は海外で回している。

 つまり、個人金融資産が2000兆円あるといっても、その半額は海外で投資されていると考えていいだろう。ということは、国内には1000兆円しか残っていないことになる。

 そして国債の発行残高はジリジリと増えて、1300兆円台になってきている。つまり、個人金融資産で相殺されるというのは過去の話であり、現在は相当額が国際金融市場の洗礼を受けていると考えられる。

 そんな中で、国際市場からは、与野党の姿勢について警戒心が生じている。つまり、日本の国家債務に関して、そして債務の総額に鈍感と言われても仕方がないのが現状で、これが今回の深刻な円安と債券安の背景にあると見た方が良い。

日本は世界最大の米国債の保有国

 では、ベッセント氏はどうして急遽このタイミングで来日するのだろうか。そこには2つの問題がある。1つは、円がこのまま劇的なまでに下がってしまうのは、トランプ政権の基本方針に背くという問題だ。日本の輸出産業はとっくの昔に空洞化しており、円安が対米貿易の追い風になるというのは現実ではなくなっている。

 けれども、トランプ氏の支持層、特に年金受給世代には、自動車摩擦で日本に痛めつけられた記憶が残っている。彼らの心情としては、ドル円が必要以上に安くなってはならない、という一種の思いが強い。そんな中で、円がどんどん下がるというのは、アメリカの政治心理の問題として看過できないであろう。

 ただ、この問題は一種の印象論に過ぎない。問題は2つ目である。

 アメリカ国内では、若い世代を中心に、日本への旅行が大ブームになっているが、彼らの多くは日本での滞在を満喫した後で、複雑な心境になるのだという。それは、あそこまで民度が高く、行き届いた社会なのに、どうして技術革新に遅れて経済が低迷しているのかという根源的な疑問である。

 彼らは、そこで人口動態の深刻さ、DXやAIへの遅れ、半導体や電池などでの投資負けなど、日本独特の問題を学び、最後にはGDPの2倍以上という「債務爆弾」を一種の恐怖心とともに理解する。そうした若い世代のアナリストたちが口を揃えて言っているのは、「日本は世界最大の米国債の保有国」であるから、財政破綻が進行する中では、ある時点で「必ず米国債を売ってくる」というシナリオである。

 つまり、日本の国債金利高、通貨安がアメリカに連鎖して、アメリカにおける金利の一段高につながるという懸念に発展しているのだ。もっといえば、日本発の金利ショックで、アメリカにおけるスタグフレーションが深刻化するというストーリーである。

 円が160円台にタッチし、ここまで大規模な介入を行っても、これに対抗するような売り圧力があるというのは、ある意味で深刻な事態である。そして、本当に円が売られ、日本国債が売られれば、仮に日本政府が米国債を売らずに持ちこたえても、「日本による売り懸念」を材料に、米国債には市場から売りを浴びせられる懸念がある。

対策を講じなければ、通商や安全保障にも影響

 これに対する対策は3つしかない。そしてその3つは全て実行する必要がある。1つは「現状において減税は難しい」という国民的合意を作ること。2つ目は、「痛みを伴うものであっても行政改革による歳出抑制、雇用と教育改革さらにDXとAIによる産業構想改革を断行する」ということ。3つ目は「これ以上の円安と債券安を許さないという日米の結束を示す」ことだ。

 ベッセント氏の決意は明確であると考えられる。これ以上の円安と日本の債券安を止めて、米国債への連鎖を回避すること、これは米国におけるスタグフレーション防止という意味で相当に強い決意であろう。そして、円安防止というのは、コアなトランプ支持層の政治的心理にも沿うことになる。

 仮の話であるが、ベッセント来日において、高市政権が減税を諦めきれず改革に消極的で、結果として日米の乖離が透けて見えるようなら、日本円と日本国債には巨大な売り圧力が殺到するであろう。

 さらに言えば、その直後に予定されている米中会談では、米経済を改善する切り札として、米中の通商問題に関して思い切った合意、それこそ日本を孤立に追いやりかねないような合意がされる危険も増す。可能性は少ないものの、AIの開発や利用における米中協調が合意されてしまうと、日本としては経済でも安全保障でも行き詰まる。

 そう考えると、今回の危機というのは単に金融の問題だけでなく、通商から安全保障にも絡む危険な転換点になるとも言える。

 

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