財務省がマスコミを煽って火消しを図った「安倍元首相発言」、いったい何が問題だというのか

スポンサーリンク
財務省 政治・経済

財務省がマスコミを煽って火消しを図った「安倍元首相発言」、いったい何が問題だというのか

安倍氏発言を歪曲して伝える財務省ポチの各テレビ局

「日銀は政府の子会社」

先週は、財政に関する興味深い話が2つもあった。5月9日の大分県での安倍元首相の講演と、その翌日10日の財務省による債務残高の公表だ。

両者の関連は以下の通りだ。9日の安倍元首相の発言だけがマスコミなどで大きく取り上げられたが、筆者は10日の財務省発表と比べると面白いと思っている。

実は、財務省の話を安倍元首相が否定しているのだ。財政問題について不勉強なマスコミは財務省の「口パク」状態で、9日の安倍元首相講演を財務省の意向どおりに批判した。そこでは財務省の反論にもならないものを、安倍元首相への批判として報じた。

Photo by GettyImagesPhoto by GettyImages

まず、事実を整理しておこう。

9日の安倍元首相の講演の要旨は以下の通りだ。

「日本人は真面目だから、経済対策を実施すると『日本はたくさん借金しているが大丈夫か』と心配する人がいる。政府の財政を家計に例える人がいるが、大きな違いが一つある。政府は日銀と共にお金を発行できることだ。家計でそれを行ったら偽札になる。

1千兆円ある(政府の)借金の半分は、日銀が買っている。日銀は政府の子会社だ。60年の(返済)満期が来たら借り換えても構わない。何回だって借り換えていい。

世界中の中央銀行と政府の関係はそうなっている。心配する必要はない。日本の国債は今でも信認されている。金利を低い状況に保てている。自信を持ってもらって構わない」5月10日 西日本新聞デジタル版

この講演に対し、メディアは《「日銀は政府の子会社」 自民・安倍氏」》などとして報じた。

翌10日、財務省は「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和4年3月末現在)」を公表した。

これに対する報道は、たとえば以下のようなものだ。

「国の長期債務、初の1000兆円超え 21年度末 財務省は10日、税収で返済しなければいけない国の長期債務残高が3月末時点で1017兆1072億円になったと発表した。18年連続で増え、初めて1千兆円を超えた」5月10日 日経新聞デジタル版

各社そろって「誤報」?

9日の安倍元首相発言に対して、鈴木財務相の見解をNHKは《鈴木財務相「日銀は政府の子会社にあたらず」安倍元首相発言で》として報じた。そこで鈴木財務相はこう発言している。

「政府は日銀に対して55%を出資しているが議決権は持っていない。また、法律で金融政策や業務運営の自主性が認められており、日銀は政府がその経営を支配している法人とは言えず、会社法でいう子会社にはあたらないと考えている」(5月13日 NHKニュース

先の日経新聞の記事では、「税収で返済しなければいけない国の長期債務残高」という表現があるが、安倍元首相の講演では、「借金の半分は、日銀が買っている。日銀は政府の子会社だ。60年の(返済)満期が来たら借り換えても構わない」と言っている。つまり安倍元首相は、この点で財務省の話を否定したことになる。

 

だが、10日の財務省公表分は数字だけの表だ。こうした場合、マスコミは記事を書くために、財務官僚のレクを受ける。「税収で返済しなければいけない国の長期債務残高」というのは、マスコミ各社でほぼ同じ表現となっており、財務官僚のレクだろう。

次いで言っておくと、「国の長期債務残高」というのは、上記の10日の公表資料には出てこない。

その定義は、「普通国債、交付国債、出資・拠出国債、承継国債等の残高の合計」だ。

これまで財務省は、ここに財政投融資特別会計国債と政府短期証券をカウントせず、また借入金の一部をカウントしてきた。これが今回「国の長期債務残高」とされた1017兆1072億円で、マスコミ会社は「国の長期債務、初の1000兆円超え」と報じている。

しかしその数字には、普通国債のうちの短期国債(1年以下)が含まれている。

かつては、従来の仕切りでもほぼ長期債務だったのでよかった。しかし、普通国債のうち1年以内の短期国債を発行するようになり、長期の意味合いがずれていった。2022年3月末現在、1年以内の普通国債残高は69兆966億円なので、長期債務が1000兆円を超えたというのはミスリードだ。ちょっとキツくいえば、各社そろって「誤報」かな、と思ってしまう。

財務省の印象操作

筆者は本コラムで何度も書いてきたが、「借金だけでなく資産も考慮せよ」「政府単体だけでなく連結ベースで日銀も含めたバランスシートで見よ」といった、会計からの王道も重要だ。そこではネット債務残高はほぼない。

それとともに、負債の内訳でもバランスシートを見れば、普通国債、財投債、政府短期証券、借入金、それら以外の債務となっているのがわかるはずだ。

財務省の役人は、それらの数字のうち都合のいいものを組み合わせて、マスコミを煙にまきつつ、債務状況を語って、ありもしない財政危機を煽っている。しかも財務省は、マスコミ各社に「税収で返済しなければいけない国の長期債務残高」といったのに、翌日安倍元首相に否定されたので、焦っただろう。

Photo by GettyImagesPhoto by GettyImages

そこで、安倍元首相の発言を整理してみよう。

日銀の保有している国債について事実関係をいえば、(1)日銀が購入した国債について政府は利払いをするがこれは政府に戻ってくること、(2)日銀が購入した国債について政府が償還する必要がない。

安倍元首相は(2)を強調し、その点をもって「日銀は政府の子会社」と表現した。これは、安倍元首相本人にも確認した。一般の人向けに話しているのだからと言っていた。

(1)について、日銀は無コストの日銀券発行により国債を購入するので政府からの受けた利払いは収益になる。その収益は納付金制度があるので、政府に支払うという意味で、正しい。(2)について、財政法に基づく予算総則の規定により、これも正しい。

 

いずれにしても、安倍首相の発言は正しいので、その表現も意図するところに何も問題ない。このようなことが可能になるのは、民間でいえば、親会社と子会社の関係くらいしかないだろう。

では、なぜマスコミは「日銀が政府の子会社」との表現に反応するのか。そもそも、マスコミで(1)と(2)を正確に理解している報道はまずない。これは学者にもいえる。

それでも、財務省は必死に印象操作をしている。

鈴木財務相は「会社法でいう子会社にはあたらない」という。日銀の法的性格をいえば、特殊法人などと同列な日銀法に基づく認可法人だ。会社法に基づく法人でないので、鈴木財務相の言ったことは正しいが、そらし論法だ。

そもそも、安倍元首相の言いたかった(2)を否定できていない。というか、(1)も(2)もいくら財務省でも否定できない。鈴木財務相の論法が、安倍元首相の反論になっていないにもかかわらず、マスコミは、安倍元首相の発言が否定されたかのように報道するのはまったく滑稽だ。

マスコミがわかっていない「中央銀行の独立性」の本質

さらに、「日銀の独立性」について、マスコミは正しく理解していないのもバレてしまった。マスコミの中には、日銀が政府から独立しているかにように思い込んでいる人も少なくない。

日銀は政府機関であるし、政府は日銀の役人任命権(国会同意が条件)、予算認可権もあるので、民間でいえばまさに「子会社」そのものだ。55%の出資があるが議決権がないのは事実だが、政府機関なので、政府と独立のはずがない。

Photo by GettyImagesPhoto by GettyImages

こうした状況は先進国の中央銀行でも同様だ。そこで、中央銀行の独立性とは、「手段の独立性」(instrument independence)であるとされている。「手段の独立性」とは、中央銀行は大きな目標について政府と共有しながら、日々の金利の上げ下げについて独立して行使する権限が付与されているということだ。

 

これは、民間の親会社が年に一度経営目標を子会社に与えるが、日々の経営までは口出しせずに子会社に運営を任せるとほぼ同じだ。このため、中央銀行は政府の子会社という比喩が使われることもしばしばだ。

この話は、世界では常識だ。筆者は20年以上前に米国留学した際、後のFRB議長になるバーナンキ教授から教わり、その後何度もいろいろなところで書いている。小泉政権のとき、副長官、幹事長、官房長官であった元安倍首相にも何回も説明した。

かつてバーナンキ氏がFRB要職に就いて来日したとき、日本講演の機会があり、この話をしたが、不思議なことにこの箇所はマスコミで報道されなかった。もちろん、FRBのホームページにはしっかりと英文で書かれている。

この話は、2012年11月19日の本コラム「バーナンキ議長も否定した中央銀行「目標の独立性」に固執する野田首相では景気はよくならない!「安倍期待相場」ではやくも市場が動き始めた」に書いたので、参考にしていただきたい。

以上の経緯からみても、安倍元首相の発言には何も問題ない。いずれにしても、筆者からみると、今回のマスコミ報道はまたかという印象だ。

それとともに、財務省はもう少し財政状況に関する正確な資料を出さないと不味いだろう。「長期債務残高は税収で返済しなければいけない」を安倍元首相に否定されたのに、それに対して反論できず、印象操作で安倍元首相の発言を打ち消そうとしたのは情けなかった。

511日、自民積極財政議連勉強会があったので、筆者は講師として「マクロ経済運営について」を講義した

高橋洋一『岸田政権のウソを一発で見抜く! 日本の大正解』(ビジネス社)が好評発売中

マイコメント

財務省必死ですね。

と言っても、安倍総理の発言が何を意味するのかよくわかってない国民が多いのが

一番の問題だろうと思います。

何しろ学校で金融について一切教えませんからね。

本当に学べるのは大学の経済学部に入った人だけでしょう。

それ以外はただのサラリーマンです。

もし、多くの国民が安倍総理の伝えたかったことがわかれば誰も税金を

納めたいと思わなくなるでしょう。

それだけインパクトのある発言です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました