イラン情勢の混乱によるエネルギー供給の危機、世界に与える影響は
トランプ大統領停戦延期、封鎖は継続で原油輸送目途立たず!
米国とイランの対立についてはまだ不確かな点が多いが、確かな点も複数ある。向こう数日間から数週間は世界のエネルギー市場で強い不安が広がり、石油、燃料、天然ガスの価格が高騰するだろう。エネルギー輸送の要衝ホルムズ海峡の封鎖によって生じるこれらの資源の不足分を、世界は補うことができない。イランのこの戦略は何十年も前から存在しており、核開発計画だけでなく、政権転覆を企てる攻撃にも用いられてきた。
イランの狙いは世界経済を揺さぶり、人質に取ることだ。その影響力が極めて現実的なものであることは明らかだ。ホルムズ海峡の航行制限による影響は多岐にわたり、世界規模に及ぶ。経済的影響も甚大だ。世界で海上輸送される原油と石油製品の約25%のほか、液化天然ガス(LNG)の20%がホルムズ海峡を通過している。エネルギー価格は乱高下しているが、おおむね上昇傾向にあり、混乱前との比較で原油は50%以上、LNGは100%以上値上がりしている。既に世界中であらゆる商品の価格が上昇し始めており、エネルギー価格の高騰が世界の金融市場に影響を及ぼしている。
石油や天然ガスは、影響を受ける商品の一部に過ぎない。そのほかにも、肥料や加硫に使用される硫黄、肥料用の尿素やアンモニア、石油化学製品、アルミニウム、そして何よりも半導体製造に不可欠なヘリウムの輸送も滞っている。ヘリウムの世界供給量の3分の1は、カタール産の天然ガスから分離されて生産される。
人々は当然のことながら、米国とイランの対立がエネルギー資源に与える影響について、現在何が起きているのか、今後何が起きる可能性があるのか、そしてその理由について、多くの疑問を抱いている。本稿では、こうした疑問のうち特に重要なものについて、分かりやすく役立つ形で解説しよう。
原油高は実際どれほど深刻なのか、そして原油価格はどこまで上昇するのか?
石油由来の製品が日常生活にどれほど浸透しているか、つい忘れてしまいがちだ。コンタクトレンズや化粧品から医薬品や電子機器に至るまで、さらに石油燃料を使ってトラックや列車、飛行機、船舶で輸送されるあらゆるものが含まれる。エネルギー消費全体に占める石油依存度の割合が多くの国で低下しつつあるのは、他のエネルギー源への移行というより、むしろエネルギー効率の向上によるものだ。
一方で、発電を重油に依存している国も依然として存在する。エジプト、モロッコ、レバノン、サハラ以南のアフリカ諸国だ。ディーゼル発電機は世界中で非常用電源として利用されており、北極圏や島しょ部のほか、電力網が整備されていない、あるいは不安定なアフリカや南アジアの農村部で主要な発電手段となっている。
したがって、原油価格の高騰は深刻な問題だ。世界はこれまでにもこうした事態に対処してきた。実際、21世紀に入ってからも原油相場が1バレル100ドルを超える事態が何度も発生している。しかし今回は原油価格が4年間下落し続けた後、突然現在の水準まで上昇した。原油価格の「危機」と表現しても差し支えないだろう。
原油価格がどこまで上昇するかは、ホルムズ海峡が封鎖された状態がいつまで続くか、つまり世界からどれだけの原油が失われるかに懸かっている。通常、同海峡を通過する原油は日量1500万バレル、石油燃料は日量500万バレルに上る。このうち約半分程度は、各国の戦略石油備蓄からの協調的な放出(後述)や、ペルシャ湾を迂回(うかい)するパイプラインの全面的な利用など、利用可能なあらゆる手段を用いて代替可能かもしれない。
英調査会社ウッド・マッケンジーと米金融大手ゴールドマン・サックスのアナリストらは、ホルムズ海峡の封鎖が今後も続けば、原油価格は150ドルを超える可能性があると予測している。インフレへの影響は甚大となる見通しで、米政府はこうした事態を望んでいないだろう。
米国は原油価格の高騰から利益を得られるのか、そして中東諸国の石油輸出を代替できるのか?
この場合、どちらの質問に対する答えも「ある程度は」となる。
その恩恵は石油産業全体に及ぶことになる。ここにはエネルギー企業だけでなく、これらの企業にサービスを提供する企業、つまり掘削装置をリースする企業、地震探査や坑井検層データを提供する企業、水圧破砕や坑井の保守を行う企業などが含まれる。こうした企業は通常、原油価格が上がると料金を引き上げる。しかし、新たな油井の掘削がほとんど、あるいは全く行われなければ費用を削減できる可能性がある。
まさにこれこそが、現在の米国産業界の戦略だ。高値がいつまで続くか不透明な状況下では、企業は新たな掘削計画を開始していない。業界は2011~14年にかけての教訓を生かし、自制しているのだ。当時、新規の掘削や生産が過熱し、市場が供給過剰に陥った結果、原油価格は35ドルを下回る水準まで暴落した。
一方、天然ガスについては事情が異なり、米国の輸出業者にとって少なからぬ利益をもたらすだろう。他の地域では価格が急騰しているにもかかわらず、米国内では価格が低水準で安定している。これは米国が必要量以上の天然ガスを生産しており、世界最大のLNG輸出国となっているためだ。向こう数週間から数カ月の間に、天然ガスの輸出は大幅な増加が見込まれており、米エネルギー省はLNGの主要な輸出拠点であるルイジアナ州のプラクミンズに対し、短期的に取扱量を増加させることを承認した。
したがって、米国のガス輸出業者は、ホルムズ海峡の危機から大きな利益を得るのに有利な立場にある。図らずも、これらの企業は2023年以降、500億ドル(約8兆円)を超える投資を伴う大規模な拡張計画を進めている。アジアや欧州での需要増に対応するため、今後4~5年間で輸出能力を倍増させることを目指しているのだ。
短期的に中東産LNGの輸出を代替することに関しては、米国の国内生産では到底できない。だが、中期的には、つまり今後3~5年の間にはこれが実現するか、あるいは既に進行している可能性がある。日本と韓国はともに、ペルシャ湾岸諸国への依存度を低減させるための新たなLNG供給契約を結んでいる。世界最大のLNG輸入国である中国については、ロシアやイランとの戦略的提携関係や、国内のガス生産量の増加を考慮すると、現時点ではそのような展開は考えにくい。
向こう数カ月のうちに、米企業が原油生産量を日量100万バレルでも増産する見込みは薄いだろう。これは必要とされる量のほんの一部に過ぎない。LNGに関しては、カタールからの供給停止により日量約2億8000万立方メートルの供給不足が生じており、米国が補えるのはそのわずか5分の1程度にとどまる見通しだ。
米国のドナルド・トランプ大統領は、同国は世界最大のエネルギー生産国であり、現在の危機を勝ち抜くと主張している。しかし残念ながら、これは米国全体には当てはまるわけではない。実際、同国も日量600万~700万バレルという規模の石油を輸入しているからだ。
むしろ、最大の勝者はロシアだ。同国は現在の石油供給の逼迫(ひっぱく)に伴い、石油輸出に対する制裁を一時的に緩和されている。ロシアは現在、石油の輸出量を増やしており、収入は1日当たり約1億5000万ドル(約240億円)増加していると推定されている。
IEAによる石油備蓄の協調放出はどのような効果をもたらすのか?
1973~74年にかけての石油危機を受けて設立された国際エネルギー機関(IEA)は当初、原油供給の確保を任務としていたが、現在ではエネルギー安全保障全般にわたる情報提供や政策提言も行っている。同機関の最初の取り組みの1つは、大規模な原油供給の途絶に対処するため、経済協力開発機構(OECD)加盟国に、協調的に放出できる石油備蓄制度を構築することだった。加盟国は現在、合計で約18億バレルの石油を確保しており、うち12億バレルは政府が、6億バレルは産業界が保有している。
先月発表された4億バレルの協調放出は、IEAの歴史上最大規模となる。その半分近くを米国が担う。トランプ大統領は当初、この提案を不要だとして拒否していたが、後に1億7200万バレルの放出に同意した。
ここで重要なのは、米国の戦略石油備蓄が4億1500万バレルと、最大量の6割程度にとどまっている点だ。これは、ウクライナ侵攻により原油価格が110ドルを超えた2022年、米国のジョー・バイデン前政権が1億8000万バレルの石油備蓄を放出したことが一因となっている。同国のクリス・ライト・エネルギー長官は、今年後半に2億バレルを石油備蓄に補充する計画があり、これにより備蓄率は約60%の水準まで回復する見込みだと説明した。
緊急放出は一度にすべて行われるのではなく、一定の速度で実施される。今回の事例では、日量200万~300万バレル程度が数カ月間にわたって放出されるとみられる。日量約1500万バレルの原油供給が失われたことに対する対応としては不十分に思えるかもしれないが、サウジアラビアが湾岸地域を迂回した供給分(日量約500万バレル)と合わせると、価格変動や価格高騰のピークを和らげる一助となる可能性がある。
今回の放出により短期的な衝撃は一時的に緩和されるかもしれないが、危機そのものを解消することはできない。イランがペルシャ湾周辺のエネルギー施設を攻撃し続ければ、放出の効果は薄れるだろう。
中東情勢の混乱は再生可能エネルギーを含む他のエネルギー源に影響を与えるか?
当然だ。石油とガスが世界経済で重要な役割を果たしていることから、これは避けられない。原油価格の上昇は製造費や輸送費に影響を及ぼし、ひいては太陽光や風力などの再生可能エネルギーの価格にも影響を与える。LNG価格の高騰は、多くの国で電力価格を押し上げるだろう。一方で、既存の発電設備を所有する電力会社やその他の事業者にとっては、収益の増加につながる。
さらに、エネルギー源の選択には競争という側面もある。「エネルギー転換」という概念は、これを理解するもう1つの方法だ。すなわち、石炭は木材と、ガスは石炭と、石油はガスと石炭と(輸送分野)、原子力は化石燃料と(発電分野)、そして再生可能エネルギーは上記すべてと、さらに再生可能エネルギーの多様な供給源の間で競合している(太陽光、風力、地熱、水力の間には、確かに競争が存在する)。
気候変動と地政学は、この資源間の競争を激化させる要因となっている。だが、それは一見矛盾しているように見える形で機能することもある。石油・ガスの供給が大幅に減少していることから、非化石燃料への移行を求める声が高まる一方で、北海などでの炭化水素資源の開発も加速している。
しかし、これらの回答は矛盾しているわけではない。エネルギー安全保障への懸念が高まる中、中国は再生可能エネルギー、原子力、化石燃料の各電源を同時に拡大しており、供給途絶という事態に耐え得る能力を強化している。したがって、エネルギー転換に関する安全保障上の議論は、複数の側面から捉えることが重要だ。
現在の混乱は「史上最大の石油危機」と言えるのか、そして国際エネルギー情勢の新たな時代の幕開けとなるのか?
最初の疑問に対する答えは「いいえ」、少なくとも「まだ」だ。1973~74年にかけて発生した最初の石油危機を上回る事態となるには、状況が大幅に悪化する必要がある。当時、石油輸出国機構(OPEC)の加盟国は石油輸出を最大で25%削減した。それに伴い、原油価格は300%以上急騰した。現在の価格に換算すると、米国によるイラン攻撃前の67ドル前後から200ドル超へと跳ね上がったことになる。
その歴史的な瞬間、世界は無防備で、まったく備えがなかった。これほど大規模な出来事はかつて一度も起きたことがなかった。石油は産業や発電から家庭用暖房に至るまで、経済のあらゆる分野に浸透していた。米国は主要な石油輸入国で、欧州もそれに次ぐ規模だった。1973年当時、海上石油貿易の85%以上をOPEC加盟国が生産していた。現在では、その割合は半分に減っている。
とはいえ、イランによるホルムズ海峡の軍事利用も、間違いなく歴史的な出来事だ。半世紀にわたる地政学的・経済的不安のシナリオが現実のものとなった。これが世界のエネルギーの新時代を切り開くことになるかどうかは分からない。
これは湾岸諸国がエネルギー以外の分野、例えば観光、金融、人工知能(AI)データセンターなどへの経済多角化を目指す取り組みに影響を与える可能性が高い。戦闘で荒廃した湾岸地域から逃れた数千人もの外国人駐在員や労働者のうち、どれほどの人数が同地域に戻るのだろうか?
今回の危機は、現代社会では石油がいまだに中心的な役割を果たしていることを浮き彫りにし、石油やガスが「時代遅れになりつつある」という主張が誤りであることを証明した。その意味で、現在の危機は現実主義への呼びかけとなっている。他方で、そうすることによって、変化の必要性を強く訴えているとも言える。具体的にどのような変化になるのかは、各国が独自に決定することとなるだろう。



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