「手入力なら数分かかる」チケットのネット購入わずか5秒、1分で完売の闇…「悪性bot」の実態とは
世界中で増殖するAIbotがチケット市場を歪め独占状態!対策はほぼ無理
[デジタル禍]増殖するbot<1>
ノートパソコンの時計が設定時刻を迎えた。
チケット販売サイトの画面が、自動で<チケット選択><支払い方法選択><購入>へと次々に切り替わっていく。この間、わずか5秒程度。
「手入力なら数分かかるが、bot(ボット)を使えば数秒で完了する」。東京都内のレンタルスペースで、botでの自動購入を“実演”してみせた神奈川県在住の会社員男性(28)は淡々と語った。
botとは、人の代わりにインターネット上の操作を高速で実行する「自動化プログラム」のことで、robotが語源だ。近年はAI(人工知能)を組み合わせた高度なものも出てきている。
男性がbotを使い始めたのは2022年頃。ある地下アイドルのファンで、以前はサイトから手動でライブチケットを購入していた。だが、販売開始から数秒でステージ前方の数百席が売り切れ、後方しか取れずにいた。
そんな時、ファン仲間から聞いたのがbotだった。「これは商売になる」と直感した男性は、仲間のbotを譲り受け、生成AIも駆使して改造を重ねた。
今はSNSで「チケ発代行」をうたい、主にアイドルのライブチケットを対象に、1件1000円前後の手数料で発券代行を請け負う。依頼は1日10件ほど。サイトは<bot禁止>を掲げるが、「規約違反でも他の人がbotを使っている以上、botで対抗するしかない」と言い切る。
「チケ発代行」はビジネス化している。数年前に始めたという別の男性は「人気アイドルのライブの場合、10万円ほどの手数料を取ることもある」と明かす。同業者は「数百アカウント規模」で、中には「不特定の人への転売目的で大量購入する業者もいる」という。「bot自体も売買されており、競争率は高まっている」と男性は話す。
インターネットは今や、botによる通信量が人間を上回り、その大半が転売、詐欺、世論誘導、サイバー攻撃などに使われる「悪性bot」とされる。ネット空間を支配し、実社会に様々な弊害をもたらす悪性botの実態を追う。
認証突破し不正購入…AIで高度化 米欧は法規制
AIで高度 1月30日午前11時過ぎ。X(旧ツイッター)上では、人気漫画「ちいかわ」の商品を巡り、困惑の声が相次いだ。公式グッズを扱うEC(電子商取引)サイト「ちいかわマーケット」でキャラクターの立体シールが発売されるやいなや、瞬時に売り切れたからだ。
同様のことは昨年3月にもあった。3年前からちいかわファンという東京都内の学習塾経営の男性は、米大リーグ開幕戦・MLB東京シリーズとのコラボ商品が同サイトで販売開始になったのと同時に、マウスを素早く動かして目当ての商品をカートに入れた。決済しようとして間もなく、更新された商品一覧画面に並ぶ文字を見てあぜんとした。<売り切れ><売り切れ><売り切れ>……。
「まさか」と思い、すぐにフリマアプリを開くと、目当ての一つだった定価約2000円の商品が数倍の値段で転売されていた。
同サイトは今年5月に利用規約を改定し、「全てのお客様に公平にお買い物を楽しんでいただくため」として、botの使用禁止を明記した。
1300億円規模
ECサイトの国内市場規模が26兆円(2024年)に成長する中、botの悪用が拡大し、公正な流通・購買をゆがめている。人気キャラや有名ブランドなどの限定品や希少品、競争率の高いライブチケットやサービス予約にも及び、IT企業「スパイダーラボズ」(東京)の試算では、botなどによる転売やいたずらを目的とした不正注文額は25年に1300億円規模に上る。
三越伊勢丹の通販サイト「三越伊勢丹オンラインストア」では、コロナ禍の22年頃から限定品やコラボ商品などの販売開始時にbotによる買い占めが増加。処理速度が異常に速いなど「人間っぽくない」挙動から不審なbotの侵入を防ぐシステムを導入・強化しているが、検知網をくぐり抜けるものも少なくない。
同社オンライン戦略部の春山哲義マネージャー(50)は「注文内容に不審な点がないかを目視でもチェックし、botを排除していくしかない」と警戒を強める。
botも急速に高度化している。
マス目状に並ぶ複数の画像から特定の画像をクリックさせる「キャプチャ認証」。botを検知する認証技術の一つで、人間にしか突破できないとされてきた。
サイバーセキュリティー会社「マクニカ」(横浜市)のエンジニア浅見駿氏が、認証を突破するものを確認したのは約1年前。AI(人工知能)を組み合わせた「AI bot」とみられ、画像の選定が難しい場合は再読み込みする機能も備えていた。浅見氏は「AIでより高度化し、検知が難しくなっている」と危機感を示す。
日本は遅れ
海外でも転売目的のbotの悪用が横行し、法規制に乗り出す国もある。米国では16年、botによるチケットの不正購入を禁じる「BOTS法」が成立。欧州連合(EU)も19年、同様の規制を導入した。
一方、日本には同様の法規制はない。ECビジネスに詳しい「弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所」の小野智博弁護士によると、「チケ発代行」のように利用者を装った商品購入は電子計算機使用詐欺罪や不正アクセス禁止法違反、botを使った転売目的の買い占めはチケット不正転売禁止法違反や偽計業務妨害罪にあたる可能性がある。
ただ、海外サーバー経由だとアクセス元の特定に時間や労力がかかることもあり、摘発事例はほぼないという。
小野弁護士は「『不公正な購入を許さない』という社会規範を明確にするためにも、欧米のような法規制の議論も重要だ」と指摘した上で、「何よりもサイト運営企業の自衛策が不可欠となる」と訴える。
bot通信53% 人間超える…昨年
仏IT会社タレスの報告によると、世界のインターネット通信量は2024年にbotが初めて人間を上回り、25年には53%に達した。うち7割超(全通信量の40%)を「悪性bot」が占め、年々増加している。利用者の質問に答えるチャットボットなど「良性bot」を大きく上回る。
日本における悪性botの割合は26%で、23年から1・4倍に急増した。業種別では「小売り」が最も多い。同社日本法人の兼子晃本部長は「生成AIで言語の壁がなくなり、日本を狙った悪性botはさらに増える可能性がある」と指摘する。



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