【後編】【ナフサ危機で悲鳴続々】断熱材やシンナーの不足で建築業界に打撃、プリンの容器やケーキのフィルム、バナナ供給にも影響
政府も楽観的な姿勢を変えざるを得ない状況に。国民にエネルギー抑制を求めるべき。
イラン情勢の緊迫が続き、石油化学製品の原料となる「ナフサ」の不足が日本にとって重大な懸案となっている。高市早苗・首相は「年を越えて供給を継続できる」と強気だが、本誌・週刊ポストが入手した内部資料と独自取材からは、その発言とかけ離れたあまりに深刻な現実が浮かび上がってきた――。【前後編の後編】
バナナ業界はエチレン不足に不安が高まる
政府が楽観的な見通しに立っている間にも、ナフサ危機は様々な分野へと広がっている。
建設業界では断熱材や配管、シンナーなどの品不足で受注停止や工期延期が相次ぎ、LIXIL、クリナップなどの大手メーカーは一時ユニットバス、トイレなどの受注停止や受注制限を発表、住宅建設やリフォーム業界は大混乱となった。
日本塗装工業会は資材の価格高騰や入手困難で工期に影響が出ているとして、国交省に民間工事でも価格変更や工期延長の協議に応じるように周知徹底を求める要望書を提出した。同工業会の村木克彦・専務理事は言う。
「塗料やシンナーだけではなく、養生シートやローラーまでどの業者も商品が入らずに困っている。高市総理は流通の目詰まりと言っていますが、仕入れ先に聞いてもメーカーに原料が入らないから製造できないのか、生産調整で欠品なのかわからない。メーカーの出荷制限が解除されたという情報もありません」
クリーニング業界も溶剤や包装材、ハンガーの調達困難で悲鳴を上げ、食品では、一部のメーカーはプラスチック容器の調達が困難で5月からのプリンの販売休止を検討していると報じられ、ケーキなどを包むフィルム、持ち帰りに使われる保冷剤もナフサが原料で価格高騰と供給不足が生じている。
バナナも黄色く熟成させるエチレンガスの供給が不安定になれば出荷が難しくなる。
「バナナは果物の年間消費量の3割を占め、年間100万トン以上輸入している。海外から専用コンテナで輸入した緑の未熟のバナナを加工室に入れて、そこでエチレンを使って5日から1週間かけてデンプンを糖化させます。このプロセスがないとバナナを食べることができません。
現時点ではエチレン不足はありませんが、価格が上昇しているようなので業界ではエチレン不足で出荷できなくなるかもしれないと不安が高まっている」(日本バナナ輸入組合の明石英次・事務局長)
石油元売り各社が加盟する石油連盟は早くから先行きに危機感を抱いていたようだ。
石油製品の輸入価格は2倍に急上昇と指摘
冒頭(前編記事)で紹介した自民党合同会議に石油連盟が提出した資料〈石油業界の対応状況について〉からもそれがわかる。
資料では、〈攻撃開始時点でホルムズ湾外から帰路についていたタンカーが日本に到着するのは3月20日頃。それ以降、中東からの輸入は途絶〉と見通しを示し、米国からの代替輸入についても、米国産原油などは〈軽質な原油〉で〈ガソリン、灯油やジェット燃料を多く生産できない〉〈製油所では軽質原油だけを装置にかけて処理することはできません〉と指摘。
注目されるのは〈原油よりも石油製品の方が調達のハードルが高く、3月20日時点で石油製品価格も約2倍まで急上昇〉とナフサ危機を予見するような意見が書かれていることだ。
楽天証券経済研究所のコモディティアナリスト・吉田哲氏もこう言う。
「ナフサの価格は、上昇しています。米国のイラン攻撃直前から比べると、足元の輸入価格は約2倍になっています。また輸入量は3月、中東からのもので前年同月から約40%減りました。価格が上がり、輸入量は減った形です」
石油連盟はそのうえで、IEAが発表した〈可能な限り在宅勤務〉をはじめ、高速道路の速度制限引き下げ、自家用車の利用制限、航空機での移動回避など10項目の石油需要削減策を列挙している。
“このままでは大変なことになるから石油の需要削減を国民に呼びかけてほしい”という要望だが、これも“黙殺”された。
突然の使用制限なら大混乱の可能性
日本は政府の楽観的な姿勢とガソリン補助金で価格が抑えられていることから国民にはまだ石油ショックという意識が薄いが、世界の受け止めは違う。
前述のようにIEAが3月20日に世界に向けて10項目の石油需要削減策を提言すると、EUは提言に沿って在宅勤務の促進や高速道路の速度制限引き下げ、航空機の利用制限などの対応を行なっており、アジアでも韓国はナンバーでマイカー利用を規制、フィリピン、ベトナム、産油国のインドネシアでも在宅勤務を奨励し、ベトナムは10%の節電などの対応策を取っている。
日本政府もこの夏から「ナフサ関連製品の15%使用制限」や「10%の節電」を求めることを極秘に検討していると報道された(『FACTA』5月号)が、経産省は「そうしたものはありません」(製造産業局素材産業課)と全否定した。
だが元経産官僚の政治経済評論家・古賀茂明はこう語る。
「第1次オイルショックの時、政府は買い占め防止法を作って生活必需品の買い占めを規制し、石油需給適正化法を作って大口需要者に10~15%の節約を義務づけた。経産省にはその当時の資料が残っているから、当然、それを参考に国民への要請や業界への行政指導、法律による強制と段階を踏まえた対応を検討しているはずです。これだけ業界の悲鳴が聞こえている以上、政府も姿勢を変えざるを得ないでしょう。
国民から見れば、大丈夫と言われていたのに突然、石油やナフサの供給がパンクして15%の使用制限などという方針が政府から出されて大混乱になる可能性がある」
これから本格的な「令和版・オイルショック」が日本を襲う。そうなれば、日本政府が業界のナフサ不足情報を黙殺してきたことは、まさに「油断」そのものではないか。
※週刊ポスト2026年5月29日号



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